文化

梅雨の彩り~アジサイの花の色

高橋 朝子(Webあまみず編集委員)

梅雨入りをしたとたんに大雨警報となり、つい気象異変との兼ね合いが気になってしまいます。雨に煙る街を歩いていると、彩り豊か、濡れてつやつやとした花々が引き立って、思わず足が止まり見とれてしまいます。

梅雨の代表のアジサイです。墨田区では通りを少し入ると路地が至る所にありますが、庭がない狭い間口の玄関先に鉢植えのアジサイが植えられ、紫、青、白、ピンクなどのグラデーションの彩りに、思わず見とれてパチリとシャッターを押してしまいました。そういえば、「すみだの花火」という名前のアジサイもあり、なじみ深い気持ちになります。

(左)額アジサイの種類のすみだの花火。中央部に密集した花があり、その周りの白く花見えるのはガクである。墨田区東向島にて     (右)ホンアジサイ。ガクアジサイの中央部分の花がなく、ほとんどガクとなっている。すみだ環境ふれあい館にて  

(左)額アジサイの種類のすみだの花火。中央部に密集した花があり、その周りの白く花見えるのはガクである。墨田区東向島にて     (右)ホンアジサイ。ガクアジサイの中央部分の花がなく、ほとんどガクとなっている。すみだ環境ふれあい館にて

アジサイの原産国は日本、東南アジアですが、日本から中国に渡り、18世紀にはヨーロッパに渡り、以来欧米で改良が重ねられた種類が日本に逆輸入されたものあります。アジサイの学名はHydrangea(ヒドランゲア)といいますが、ラテン語で「水の器」という意味で、まさに梅雨に映える名前です。ちなみに漢字では「紫陽花」と書きますが、平安時代の学者が、中国の唐の詩人が命名したと伝えられる紫の花だと思い、アジサイに紫陽花の漢字を誤ってあてたものだそうです。

アジサイの花に見える部分は実はガク(萼)です。本当の花は、ガクアジサイ(周辺の花に見えるガクが額縁のように見えるために名づけられた)の中央部にあるような粒状の小さくて目立たない方です。よく見ると、粒が開いて雄しべ雌しべが見えている場合があります。

細胞の青、紫、赤色はそれぞれの成分の比率と細胞pHの違いのバランスで決定される。

細胞の青、紫、赤色はそれぞれの成分の比率と細胞pHの違いのバランスで決定される。

このガク片の色は、土により、咲いてからの期間により、また個々の花でもいろいろ変色します。一つのガク片を顕微鏡でのぞくと、隣り合った細胞でも色合いが様々です。すなわち、同じ遺伝子を持っていながら、隣同士でも変異する植物なのだそうです。アジサイの花はなぜ咲く時期や場所、また開花してからの日数によっても色が変化するのでしょうか。よく、土の酸性度のことが影響しているといわれますが、実はもう少し複雑な要素があります。

ガク片は、表層の細胞は無色で、第2層の細胞の液胞が着色しています。色の成分は、青色も赤色も同じアントシアニンで、その量に色合いが左右されているというわけではありません。他に有機酸エステル類3種(「助色素」といいます。)とアルミニウムイオンが存在し、pHは青色が4、赤色が3程度の違いがあります(図参照)。この微妙なバランスが美しい色の七変化となって現れるのです。

アジサイの毒性について、参考までに。2008年茨城県で料理に添えられていたアジサイの葉を食べた10人のうち8人が食後30分から吐き気、めまいなどの中毒症状を起こしたそうです。ほかにも2009~2010年にアジサイの近縁のアマチャが原因と思われる食中毒事件が起きています。中国では抗マラリア剤の生薬として使用されていますが、副作用で嘔吐症状があるとのこと。しかし、この食中毒事件を機に毒性成分の有無が調べられましたが、いまだその原因物質は明らかになっていません。アジサイは花の色ばかりでなく、他の成分も違いがあるように思われます。

 

参考

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