文化

【寄稿】雨と遊ぶ

麓 雄二(雨水市民の会会員)

現在私は、雨水を取り込んだ造園デザインの企画・製作を「工房陶水」として行っております。以前は公園内に設置する遊具・ベンチ・橋などを設計・施工する会社におりました。特に「木」を活かした製品づくりを行っていました。公園設計の企画段階では、公園全体のコンセプトに呼応する施設のデザインを提案することや、実際の施工などの監理を行ってきました。このような経験を活かし現在は、庭園に雨水を活用し自然素材とを組み合わせた、楽しく遊べ親しめる環境を提案しています。

写真1 初めての作品(2012年)(左)樹脂製の雨水タンク。(右)使った分だけ雨水タンクから動力なしで補給きるようにした水鉢。

写真1 初めての作品(2012年)(左)樹脂製の雨水タンク。(右)使った分だけ雨水タンクから動力なしで補給するようにした水鉢。

過去5年間、私が取り組んできた雨水活用について、その思いを具体的な事例を通して振り返ってみました。私が雨水活用施設のデザインをするとき、常に心掛けていることは、日常生活の中で無理なく継続的に雨水を利用し、自然の循環を実感できる「場」を創ることです。それには自らが水に動きを与えることでできる水の流れや水音を自然の恵みとして身近に感じ取ることができる「時間」と「空間」が必要と考えています。そのためには利用者が後にアレンジを加え、部位を移動させたり追加したりと変化させ、オリジナル性を高めながら継続的に創り育てていく基本の形を提案できればと考えています。

写真2 和を演出(左)竹筒から水鉢に雨水が流れ込む。(右)鉢の上部に藤棚で日影を作る。

写真2 和を演出。(左)竹筒から水鉢に雨水が流れ込む。(右)鉢の上部に藤棚で日影を作る。

5年前に初めて製作した事例は、雨水を一旦樹脂製タンク(約200ℓ)に溜め、水位調整用フロートを使用して水鉢の水位が下がると自動的に鉢底から水が湧いて出てくるシンプルなシステムです。樹脂製タンクは目につきにくい場所に配置し、パイプを埋設して水鉢と連結しています。水鉢は周囲の植栽に溶け込みやすい陶製としました。この組み合わせは電気などの動力を使わず自然のちからのみで水に動きを与えるシステムとして現在でも変わらず基本としています。(写真1)

次に試みたのは、水位調整タンク(陶製)より竹筒を通して水が水鉢へと流れ落ち、水音を楽しむデザインです。この水鉢の周囲にも植栽、飛び石等を配し、坪庭風に「和」を演出しました。又、水鉢内の水温が上がらないために藤棚を加え日陰を作り、夏場の散水に配慮しました。(写真2)

写真3 流れを表現。(右)ピラミッドの頂上から水が噴き出し、水路を流れ、水鉢に入る。

写真3 流れを表現。(右)ピラミッドの頂上から水が噴き出し、水路を流れ、水鉢に入る。

その後「流れ」と題した水の流れを観て聴いて楽しむ施設を製作しました(写真3)。陶製の水路を3つ組み合わせ流れを作り、水が水鉢へと流れる構成です。水鉢については、それまで既成の鉢を細工して使用していましたが、写真3(右)の事例からはオリジナル品を製作し、いぶし銀の仕上げとしたことで周囲にも溶け込みやすく、違和感なく水遊びが楽しめる場ができました。

その次に、水に勢いを与え噴水のように吹き上がるシステムを創りました。

写真4 噴水が楽しめる作品。(左)上から噴き出すブジェ。(右)内部の照明で流れる雨水が光る。

写真4 噴水が楽しめる作品。(左)頂部から噴き出すオブジェ。(右)内部の照明で流れる雨水が光る。

写真4(左)は、一般住宅の2階ベランダに貯水タンクを設け、そこから地上のタワー状オブジェ頂部より水が吹き出る仕組みです。雨水は約3mの落差を勢いよく地上へ流れ落ち、タワー頂部から吹き出た後、水はタワー側面を駆け落ちて水鉢へと流れます。この水の吹き出し高さはバルブにより調整ができます。又、この場合にも水鉢周囲には植栽を配し、周りの環境と一体感を生むよう配慮しました。

このシステムは、石を組上げて滝のように落水を楽しんだり、水の勢いを利用して水車を回したりなどいろいろと水遊びができます。写真4(右)のオブジェは内部に灯りを設けフットライトとしても使用できます。

これらの雨を演出させた庭づくりは、2014年7月の雨水市民の会の研究・活動発表会で私が発表したり、Webあまみずでも以下の記事で取り上げてもらったりしました。

・Webあまみず2013/10/17 庭にとけこむ雨水活用~植木鉢サブタンクに込められた工夫

・Webあまみず2014/5/7 庭にとけこむ雨水活用その2~さらに改良された植木鉢サブタンク

・Webあまみず2015/12/16 庭にとけこむ雨水活用その3~蕎麦屋さん「あり田」の雨水庭園

最新の事例としては、昨年11月に幼稚園の園長先生宅改築に伴う造園の改修工事として、「雨水庭園」を造りました。

写真5 傾斜地の庭を改修。(上)施行前(下)工事中の様子

写真5 傾斜地の庭を改修。(上)施工前(下)工事中の様子

傾斜地に、石積みを施し周囲には元々あった雑木を取り込んだ「溪谷」を表現し、雨水はそこから染み出る湧水をイメージさせる構成としました。この工事のきっかけは、工事着手5カ月前に園長先生を訪ね、現在私が行っている雨水活用のお話を事例写真と共にご説明したところ、今自宅を改築中で庭をどう造ろうかと思っていたとのことで、直ぐに現場を案内していただき、早々に提案図面を作成する運びとなりました。後日、現地の地形を活かした溪谷風庭園をご提案しところ、即採用していただきました。

石組に使用した石材は、東京秋川の造園業者さんが長年寝かしコケが蒸した石を組み上げました。又、飛び石には京都の鞍馬石(雨に濡れたときのさび色がとても美しい石)を使いました。今回の水鉢は直径110㎝の大型であり、製作上形状を維持することが大変難しく、何度か失敗を重ねましたが、納期にはぎりぎり間に合わせることができました。この大きな水盤には、周囲の紅葉したモミジが水面に映り込み、周りとの一体感が感じられました。

完成した庭園を観た園長先生からは、「以前からここにあったような周囲に溶け込んだ庭ですね」と感想をいただきました。雨水の取り込みについては、雨樋から取水した雨水を一旦樹脂製大型タンクへ溜め、水位調整タンクを通り庭園奥の石積み下部に設置した水路(陶製)へと落ち、階段状の水路をつたわり水鉢へと流れます。又、今回の工事ではメンテナンス用に取水部と貯水タンクの中間位置にドレン用バルブを設け、パイプ内の掃除をし易くし、システムとしての完成度を高めました。この庭園は幼稚園の中央に位置しており、これから多くの園児たちがこの雨水庭園に接し楽しみながら雨水を身近に感じてもらえることと思います。(写真5・6)

今後も、更に水の動きを生み出すアイデアを駆使し、具体的な「形」として提案していきたいと考えています。

写真6 改修が終わった「雨水庭園」(左)渓谷風の全景。(右)水鉢と水路。

写真6 改修が終わった「雨水庭園」(左)渓谷風の全景。(右)水鉢と水路。

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