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”雨水法”周知シンポジウム~その2~雨水法を多面的に考えよう

〇地域で雨水を蓄えるための規準づくりを~雨水学術の視点から

日本建築学会雨水活用技術規準策定小委員会 神谷博

日本建築学会では、これまで「雨の建築学」「雨の建築術」「雨の建築道」の3冊の本を出版し、2011年には「雨水活用建築ガイドライン」を、雨水活用建築での使用用途やシステム選定などについての規準を作りました。

雨水法シンポ蓄雨現在は、ヨーロッパでの洪水対策である「ブルーグリーン都市」(都市計画に水域と緑地を統合した都市)の考え方にも通じますが、「水は水だけでなく」、雨水活用を治水、利水、環境、防災と広い観点で捉え、制度化のための規準づくりをすることを今年度中に作りたいと取り組んでいます。新しい概念であり、我々は「蓄雨(ちくう)」(仮名称であり調整中)と呼んでおります。100㎜/時の降雨があった場合、その地域の雨水処理能力が50㎜/時であるならば、一時貯留+浸透+蒸発散で50㎜/時対応ができる建築敷地及び建築物とするという考えで、福岡市には100㎜/時建築という実践例があり、これが「治水蓄雨」となります。他に「利水蓄雨」「環境蓄雨」「防災蓄雨」のバランスを地域ごとに策定していく必要があります。この蓄雨には「個別蓄雨」と「地域蓄雨」に分かれ、図1のような対比ができます。

雨水法の13条には「技術研究等の推進及び技術者の育成」とあり、「企画等に関する調査研究等の推進及びその成果の普及」が謳われています。前述したように雨水活用の総合的な規格は整っていません。これからの課題として蓄雨量の決定、水質面での保健衛生上の問題、地下水保全、雨水活用システムの課題等のほか、気象情報から地域の雨水スマートシステムや「雨庭」など緑との一体的デザインなどがあげられます。

すなわち、雨水から始める水循環として建築やまちづくりの考え方の見直しをしたいと思います。

〇国民の意識を雨水産業活性につなげるために~産業の視点から

雨水再生水利用意識調査公益社団法人雨水貯留浸透技術協会技術第二部部長 屋井裕幸

最近、水災害や水循環に関する国民の意識について調査した2つのアンケート結果を見てみます。一つはミツカン水の文化センターが2014年6月に東京・大阪・中京圏の人を対象に実施したインターネットアンケート「水と防災の市民意識」。最も不安に感じる水の災害の第1位は、台風を越えてゲリラ豪雨でした。もう一つは、内閣府が2014年7月に行った水循環に関する世論調査。水と関わる豊かな暮らしに、洪水の心配のない安全な暮らしを求めるに都たちが51.3%もいました。また、雨水や再生水を利用したい人たちが87.7%(図2参照)、雨水貯留浸透施設を導入したいが75%と、意外なことに雨水活用したい人たちの割合がかなり高いことが分かります。②のうち積極的に使いたい:28%、用途に応じた水質であるならば活用したい:60%。③では補助なしで導入:5%、一部補助:40%、全部補助:30%と補助が大きな誘因になると思われます。

このように雨水活用に関する国民の意識傾向に対し、自治体の助成も徐々には増えていて、貯留は179自治体が、浸透は94自治体が助成をしています。しかし、貯留のための助成対象のタンクは200~500ℓ未満のものが中心です。これでは水資源の有効利用や治水対策に実効性があるかというと、疑問があります。この法律ができたことを契機に、実効性のあるものにしていかなければならないと思います。

雨水活用の実例ですが、世田谷区において30年間雨水の貯留利用浸透をしてきた住宅について説明します。屋根の雨は2系統に流れ、105㎡の屋根の雨水は浸透し、116㎡の屋根の雨水は貯留して利用してオーバーフローは浸透させています。1年間の降雨に対し、65%が浸透、23%が利用に、残りの12%が流出したという結果でした。このように、実効性は一般住宅でも得られる技術はありますが、事業として活性化できるかが課題です。先ほどの調査の結果や今回の法律の成立により、官学民がその方向に向かうならば、ビジネスは活性化し、性能、コストなどをよりスキルアップしていけるものと考えます。

〇雨水活用を身近にするために~市民の視点から

雨水活用を普及するために市民の活動も重要と発言する雨水市民の会・松本副理事

雨水活用を普及するために市民の活動も重要と発言する雨水市民の会・松本副理事

NPO法人雨水市民の会 副理事長 松本正毅

雨水活用を普及させるための施策には、貯留浸透施設等への助成金や、雨水活用に対しての下水道料金割引など、市民にとって実利になる制度が必要です。しかし、金銭的面ばかりでなく、雨水が市民生活に有効な地域資源であることへの広い認知が大切です。

幸い雨は、身近な自然現象で環境学習として広がりがあり、エンターテイメント的な取り組みも注目を浴びています。雨が降ったら濡れていやだなという都会的な考えから、水循環の雨、雨との共生などを意識して活用していくことが求められます。雨水市民の会では、最近出来上がった「雨つぶぐるぐるすごろく」で水循環を体現できるものをつくったり、手作りタンクを作る講座や、防災体験のときに雨水でバケツリレー、雨水に関するまち歩きをするなど、様々な活動を行っています。雨水で生活が楽しくなる学習を通して、地域から地球まで、将来・未来を考える機会を作っていきましょう。

〇自治体の連携を図りたい~行政の視点から

雨水利用自治体担当者連絡会代表幹事 墨田区 山田和伸

昭和60年に竣工した両国国技館に雨水利用が導入されたことが契機となり、墨田区は先進自治体として区の施設や大型施設に雨水利用を指導し、実績を上げています。区内での雨水利用は、平成25年4月の時点で247施設、総貯留槽容量は21,150㎥、集水面積は174,431㎡となっています。しかし、都市型洪水対策にはまだまだ足らない状況です。

また、平成8年に墨田区から呼びかけて「雨水利用自治体担当者連絡会」が結成され、平成20年に雨水ネットワーク会議の設立に結びつけました。現在、131自治体(平成26年9月末)が参加していますが、全国自治体の1割に満たない状況です。雨水法が施行されて、国によるリーダーシップも期待されるところですが、産官学民による雨水ネットワーク会議により全国の自治体に連携を呼びかけ、雨水活用の普及促進をしていきたいと思います。

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