2012.12.09
【Report】第5回 雨水ネットワーク会議 全国大会2012 in 東京
あまみず編集部 高橋朝子
会議日程:2012年8月4日
会場:東京大学生産技術研究所 コンベンションホール
エクスカーション:8月5日
①世田谷神明の森みつ池 他、②小金井滄浪泉園湧水 他、③墨田路地尊 他
8月4日に、東京大学生産技術研究所コンベンションホールで、沖縄から東北まで、214名が参加して全国大会が開催されました。当会も参加した実行委員会からCD版の報告書*が10月下旬に発行されました。遅くなりましたが、その概要をお知らせします。
●基調講演 高橋 裕さん
(大会会長・東京大学名誉教授)
日本は、雨が大変身近な存在だ。古くから雨、水、川などにまつわる暮らしが根付いており、雨の微妙な変化を楽しむ感性が育まれてきた。古来、日本の健全な水循環は、稲作文化により保持され、雨が尊敬の対象ともなっていた。しかし、都市の発達とともに水循環が乱され、都市型水害がいたるところに起こるようになり、近年では豪雨の頻発によってさらに雨水活用の重要性が増している。私たちは雨から始まる水循環の大切さを理解し、水循環の中で雨の貯留・浸透・利用をとらえていく必要がある。今後、この会議で気候変動のほか、海面上昇などの問題についても調査研究していただきたい。
●リレーセッション①<雨水学習>
当会の会員の笹川みちるさんからは、すみだ環境ふれあい館で携わっている環境学習やワークショップ、区内に点在する路地尊や東京スカイツリータウンでの雨水活用などを一堂に紹介し、雨と水から環境を考える拠点としての役割を担っていきたいと発表した。
島崎博子さん(ライオン㈱)からは、「洗うこと」を通じて水と深く関わる企業として、「両国さかさかさ」「雨活アイデアコンテスト」など雨水活用の普及啓発に取り組んでいる報告があった。
韓国のキム・ヒュナさん(IWA大会委員会幹事)からは、韓国のコソンで開催された恐竜EXPO(2012.3.30~6.10)と併せて5月に実施されたIWA雨水国際会議 の報告があり、世界的な水危機に対して雨水活用と環境教育が有効な解決方法であることを訴えた。
●リレーセッション②<雨水事業>
東日本大震災の支援として東松島市の戸建住宅と仙台市の仮設住宅で雨水タンク設置に携わった玉田敦雄さん(タキロンン㈱)からは、災害時も含め使いやすいタンクの開発・改良が必要だと指摘がされた。
佐々木正顕さん(積水ハウス㈱)からは、住宅メーカーの太陽光発電などの取り組みに比べて一歩遅れている雨水活用に、雨を貯留・浸透するデザインの創出や“雨を楽しむ”「レインガーデン」のような付加価値を持たせて、住宅とセットでの雨水活用を模索している報告があった。
福岡孝則さん(神戸大学大学院工学研究科特命教授)は、ドイツのベルリン市ポツダム広場再開発やシャーンハウザー住宅地における雨水プロジェクトを紹介した。設備的・後付的な展開ではなく、生活空間や都市の一部に目に見える形で包括的な水環境マネジメントが大切であると強調した。
韓国のキム・リホさん(科学技術連合大学大学院大学校教授・韓国雨水協会理事)は、韓国での雨水管理政策や産業界の事例を紹介した。雨水利用を進める条例を持つ39の市、貯留浸透を含む雨水管理を義務付けるソウル市など18の市、さらに総合水循環を構築するための条例を持つスウォン市など2つ市がある。
●リレーセッション③<雨水市民>
渡辺亮一さん(福岡大学工学部准教授・樋井川流域知水市民会議)は、自宅の新築にあたり、300㎡の敷地から雨水を下流に流さないことを目標に、「100㎜/1h安心住宅」と命名した雨水利用実験住宅を2012年4月に完成した。約3割の水道使用量の削減になり、水質を含め現在もデータを取っている。
市民の会の会員でもある谷口淳一さん(国立市水の懇談会)、一人一人が自分の手足と頭を使ってコツコツ地道にやっていくことが大切であると、国立市での雨タン設置普及活動を紹介した。
兵働馨さん(長崎よか川交流会会長)は、2012年2月に長崎で開催された「雨水ネットワーク九州IN長崎」において、雨水を溜める意義を共有し、かつ各地の特性に応じた活動をネットワークで広げることなどを「長崎宣言」に盛り込んだことを発表した。
●リレーセッション④<雨水行政>
徳道修二さん(国土交通省水資源部企画専門官)は、現在、雨水と再生水の使用量は水使用量全体の0.3%にとどまり、多様な水源確保や緊急水源として雨水利用促進が望まれている。今年7月に「雨水の利用の推進に関する法律(案)」が参議院を通過し、間もなく立法化されるだろうと報告された。
村田直之さん(環境省水・大気環境局地下水・地盤環境室)は、原発事故による放射能汚染が水環境に及ぼした影響を調査した結果を報告した。河川、湖沼、沿岸等(2011年8月~2012年3月に730か所)では、福島第一原発20㎞圏内を中心に、水からは放射性セシウムが数Bq/L~15Bq/L検出、底質や周辺土壌からが最も高く数十万Bq/ ㎏単位の放射性セシウムが検出された。また、放射性セシウムの値が比較的高かった6県の河川・湖沼の底質では、ストロンチウムが0.4~6.8Bq/kg検出した。地下水(2011年10月~2012年3月に644か所)ではほとんどの地点で放射性セシウムを検出しなかったが、ストロンチウムが20㎞圏内の8地点で0.0004~0.0029Bq/L検出された。
土方隆さん(東京都建設局河川部計画課総合治水河川係長)は、一極集中型のゲリラ豪雨に対して即効性が高い河川整備や調整池の設置だけでは十分でなく、効果が多方面に及ぶ流域対策も大切であると発表した。
笹嶋和彦さん(世田谷区河川・雨水対策担当係長)は、世田谷区として30年後に区内全域で10㎜降雨相当の流出抑制を目標に、ダムと同じ効果を持つ貯留浸透施設の設置を含め流域対策を講じていくため、区民、事業者、NPOが一体となって「世田谷ダム」構想の紹介をした。
●特別講演 ハン・ムーヨンさん(ソウル大学教授)
雨水が汚いという認識が根付いているが、降ったその場ではきれいな水質であり、雨水が流れていく過程が長いほど汚れてしまうものである。韓国のスターシティでは、洪水防止、水節約、防災の役割の1000㎥の雨水タンクを3つ持ち、1年間に4万トンの水の節約、1万キロワットのエネルギーの節約ができるシステムである。日本・韓国は自然環境が似ており、干ばつや洪水などの最悪条件でも水管理技術を駆使している。両国が協力して雨水管理を世界の見本となるまでに高めていくことを期待したい。
●映像セッション ファン・スンヨンさん(スカイフィッシュ・メディア代表)
東日本大震災後の500日を映像記録した。その際に最も必要だったのは水だった。現代人は水の大切さを忘れているのではないか。水道がない時代は井戸水に頼り、井戸水さえない地域は雨水を頼りにした。雨水は古来から利用されているが、今後の水問題に対応するために新しい解決策となるだろう。
●パネルディスカッション 「“いのち”育む雨循環 いま~あした」
パネリスト:栗原秀人(メタウォーター㈱ 技監)・高橋万里子(NPO法人環境ネット東北 専務理事)・忌部正博(公益社団法人雨水貯留浸透技術協会 常務理事)・笠井利浩(福井工業大学工学部准教授) コーディネーター:神谷博(日本建築学会雨水建築普及小委員会 主査)
神谷:今回のパネルディスカッションは、リレーセッションのまとめと東京宣言に向けての議論の場としたい。【自己紹介と各セッションの補足】
笠井:私は、農業の体験から田んぼに必要な水、そして雨水活用へと視点が広がり、環境教育などの実践を通じてやライフサイクルマネジメントにも理解を深めていった。現在は、水道水、雨水、井戸水などの環境負荷を比較して雨水活用に役立てたい。
忌部:雨水貯留浸透技術協会の設立当初から携わり、健全な水循環を考え雨水の貯留浸透の普及の活動をしている。雨水活用は治水、利水、環境の観点からも重要と思う。リレーセッションを聞いて、河川は河川、下水は下水といった縦割りの発想では雨水活用はできないものだと思う。今回市民、事業者、行政、学習といった人たちが「雨」とどのように付き合うか横断的なコンセプトが必要だ。
高橋:私の住む仙台では、3.11の災害以降、水に困ったという人が9割近くいた。雨水タンクの講座が大変人気があった。私たちが担当した四谷用水(広瀬川から取水している用水)の見学会も大変盛況で、水環境への市民の関心が高くなっていると感じている。
栗原:私は建設省、国土交通省と34年間行政にいた。ゲリラ豪雨により都市で洪水が頻発し、行政が雨対策に当事者意識を持って関わっていかなければならないと、国交省内の関連11課長による「都市における安全の面から雨水浸透の推進について」という通知(H19.3.30)を出した。雨水活用は、治水、利水、環境だけでは収まらない多面的な価値があると思う。世田谷区や小金井市や長崎市などの実践を見て、雨と上手に付き合って、その多面的な価値を引き出していく認識が各セッションにあった。
【その後、大会宣言に向けて議論したが、まとめに至らなかった。最後に高橋裕先生から、雨水の価値をみんなに知ってもらう、楽しむ、共有することが大切、今大会に参加された方は是非に一般の人に雨水の価値を知らせるために努力してほしい、とメッセージがあった。大会宣言(P6)は、今大会の報告書の中で提示された。】
●エクスカーション① 世田谷 神明の森みつ池 他 コース
●エクスカーション② 小金井 滄浪泉園湧水 他 コース
小金井市は、多摩川の段丘の一つである国分寺崖線がある場所で、「ハケ」と呼ばれる緑豊かな崖の下にはあちこちから豊かな地下水が湧き出ている。滄浪泉園はその代表的な場所である。しかし、他の地区は開発が進み、緑がはがされ湧水が枯渇しつつある。そこで、市を挙げて雨水貯留・浸透ますの普及を進めており、その浸透の様子を見られる体験施設の見学をした。また、商店街では飲める井戸を掘って活性化を図ろうと、約3000人の登録があるという「黄金の井」を見学。説明中にも多くの市民が水を汲みに来ていて、存在価値が感じられた。
通称「雨デモ風デモハウス」という研修施設では、自然エネルギーを電気に替えるのではなく、そのまま冷暖房に使う手法で、暑い最中気温31℃であったが、それほど暑く感じなかった。
●エクスカーション③ 墨田 路地尊 他 コース
会員の山田岳之さんが、見学の様子をユーチューブにアップしています。
http://www.youtube.com/watch?v=J2Lo8UBxT-I&feature=plcp