ネットワーク

(2) すみだの雨水〜過去から学び、Next Stageへ(セッションⅠ)

雨水ネットワーク全国大会 in すみだ実行委員会

” 第14回雨水ネットワーク全国大会2024 in すみだ”報告 (その2)

セッションⅠ  すみだの雨水〜過去から学び、Next Stageへ〜

墨田区は40年以上前から雨水活用に取り組んでいる自治体です。雨水活用のパイオニアであり墨田区職員であった村瀬誠氏からこれまでの区内外の取り組みを語ってもらい、今後、墨田区が雨水活用をどう進めるかを登壇者を交えたパネルディスカッションで議論しました。

Ⅰ−1 講演「あまみずイノベーションを未来につなぐ〜雨に感謝し、雨を活かす、平和で幸福な世界を目指して〜」

 講師 村瀬 誠(元墨田区職員・天水研究所)

ためた雨水はライフポイントになる!

流せば洪水、ためれば資源。(村瀬誠氏スライドより)

今から30年前の1994年、墨田区において雨水利用東京国際会議が開催されました。ここで東京における雨の教訓が二つ明らかになりました。一つは、地域水循環との断絶でした。都市をコンクリートで打ち固め雨を徹底的に排除した結果、雨が一挙に下水道に押し寄せ、都市型洪水が頻発するようになったのです。二つは、都市に降る雨を下水に捨ててきたことでした。東京は水が足りないからと言っては上流に大きなダムを求めてきましたが、足元には年間に東京で使われる水の量を上回る雨が降っていたのです。これらの教訓から出てきた結論が、雨を下水に流すのではなく、溜めて資源として有効活用し、水源の自立を図ることでした。

雨水利用東京国際会議の翌年、阪神淡路大震災が起き150万都市・神戸市の水道は壊滅的な被害を受け1ヶ月断水しました。2024年1月の能登半島地震でも耐震水道管が破断しました。ここから学ぶべき教訓は、ライフラインからライフポイントへの発想の転換です。ライフポイントとは雨水タンクや井戸のような小規模で分散した自立型の水源のことです。墨田区にはライフポイントとしての路地尊があります。

Drain CityからRain Cityへ

(村瀬誠氏スライドより)

国際会議に合わせ、区が実施した雨水利用の普及に伴う治水、利水及び防災に関する解析結果によれば、一定条件のもと区内の30%のビルや住宅で雨水をためると、渇水して断水しても日に2400トンの水を、震災時には一人1日に11リットルの水を供給できること、また降水に伴う下水ポンプ所からの河川の排水回数も半減させ隅田川の水質汚濁防止にも寄与することが分かりました。さらに墨田区は長年にわたり墨田区新庁舎や国技館、路地尊の水質確認を行い、非常時には飲料水として利用が可能なレベルであることも実証してきました。

こうした実績を受け、1995年に墨田区は「雨水利用の推進指針」を策定しました。その柱は三つで、一つは行政の率先実行です。二つは要綱や条例に基づく民間への指導で、東京スカイツリーもこれにより2,635トンという区内最大規模の雨水タンクを完成しました。そして三つは雨水タンクの設置助成です。

墨田区は文字通り、雨水の排水都市(Drain City)から雨水都市(Rain City)へ変貌しました。区のこうした取り組みの成果が、2014年の「雨水の利用の推進に関する法律」の制定につながったといっても過言ではありません。今後、雨をため、雨に感謝し、雨を活かすことが当たり前になる社会を目指し、雨水活用の産官学民の雨水ネットワークがさらに発展していくことを期待しています。

「あまみずイノベーションを未来につなぐ」の講演をする村瀬誠さん。着ているTシャツは30年前の国際会議の時に作ったもの。

*路地尊:防災まちづくりのシンボルとして墨田区の住民団体が名付けた。近隣の住宅の屋根に降った雨を集めて雨水タンクにため、災害時にも使えるように手押しポンプで汲み出す。普段は草花を育て金魚の水にも利用している。墨田区には20ヶ所の路地尊がある。

No More Tanks for War,Tanks for Peace!

雨は誰もが手に入れることができる安全な水源です。バングラデシュの沿岸部の農村には水道がなく住民は遠くの池まで水を汲みに行かなければなりませんが、その水が清浄ではなく下痢の被害が深刻です。砒素で汚染されている地下水もあります。また塩害も出ています。こうした深刻な飲み水の危機を救うために天水活用ソーシャルプロジェクトに取り組んで20年になります。これまでJICAの支援も得ながら個人家庭を中心に病院や学校など5000基を超える雨水タンクを設置してきました。2022年にはロヒンギャ難民キャンプがあるコックスバザールの二つの学校に100トンの雨水タンクを建設しました。SDGsの中で最も大事なのは水と食と平和です。世界の空はつながっています。雨を活かして平和で幸福な社会を未来につなぎたいと思います。「No More Tanks for War,Tanks for Peace」(戦争のためのタンクはいらない、平和のための雨水タンクを人々に届けよう。)


Ⅰ−2  パネルディスカッション:「すみだの雨水〜過去から学び、Next Stageへ」

セッションⅠのパネルディスカッションでは5人のパネラーがすみだの雨水について語った。

◾️コーディネーター 菜原 航(墨田区環境政策課長)

40年以上前から雨水活用を進めてきた墨田区の歴史、取り組みについて元墨田職員で雨水活用のパイオニアとして活動された村瀬誠氏に講演していただきました。そこから学び、振り返りながら、現状から次の段階を考えました。

近年「気候危機」と言われる気候変動問題は墨田区にとっても喫緊の課題であり、これまで墨田区が行ってきた雨水対策の他、新たな雨水活用の対策を進めるタイミングに来ています。雨水対策の次の段階(Next Stage)に何が必要なのかを地域の関係者とディスカッションをしました。

⚫︎すみだの「防災まちづくり」と「雨水」

佐原滋元(一寺言問を防災のまちにする会)

向島地域の路地尊(佐原滋元氏スライドより)

京島地域と向島地域は、木密地域で消防車も入れない路地が多いまちで、住民の防災意識は高い地域です。こんな地域だからこそ、30年以上前に「路地尊」が生まれ、普及した地域です。一寺言問を防災のまちにする会(通称「一言会」)は向島地域にある寺島第一小学校と言問小学校の区域で約5000世帯の地区の住民が、コミュニティを大切にしながら災害に強いまちをつくろうと活動をしています。一言会の路地尊は6基あります。路地尊はいざという時の一時消火の水、水道水が出なければ飲み水にしようという住民のアイデアから作られました。1号基は銭湯の井戸水を利用しようと、バケツと掃除用具を入れる格納庫があるものでしたが、2号基からは隣家の雨樋から地下タンクに雨を導きためる仕組みです。京島地域は一言会の地域より消防用水の確保を図りたいと、路地尊の雨水はためておく傾向にあります。

地域差がありますが、行政の指導もあり雨水タンクが数多くできました。しかし、あまり知らない住民も多く、今後、誰もが理解して雨水活用にみんなが取り組んでいけるようにしたいと思います。

⚫︎〜捨てる雨水から還す雨水へ〜 市民の雨水活用を実践

高橋朝子(雨水市民の会)

雨水市民の会の活動紹介(高橋朝子氏スライイドより)

雨水市民の会は1994年の雨水利用東京国際会議の実行委員会を母体に生まれ、これまで環境学習や雨水関係の会議などの活動を通じて「捨てる雨水から還す雨水へ」と人々の意識の啓発に取り組んでいます。

雨は生命を育み地球環境を守っていくのに欠かせないものです。都会では雨は邪魔者として早く「捨てる」人々の意識も手伝い、下水道へほとんど流れていきます。墨田区では雨水利用を40年前から進めてきて現在は約800ヶ所の雨水タンクに27000トン弱の雨がためられるまでになりました。

現在、雨水市民の会では、雨水環境学習や小さな雨水管理NbSをモデル実証するための下町・雨みどりプロジェクト、中央大学と雨水飲料化の水質調査、雨水活用見える化の実証、リアルタイムの雨水タンクの水位がスマートフォンで分かる試み、そして村瀬誠さんのバングラデシュの事業の支援などの活動を多面的に展開しています。

今後Next Stageへ向け、さらに多くの場所にわずかでもためられる雨水タンクや一時貯留の場所が面的に広がり、雨水活用が当たり前となるように、子どもたちも含め雨の環境学習をさらに進めていきたいです。

⚫︎墨田区における雨水タンクの利用実態について

木下 剛(千葉大学大学院園芸学研究院)

左)雨樋プランター試作品 右)調査結果の見える化(各ポイントで個々の調査結果の内容が見られる) (木下剛氏スライドより)

2021〜2023年度に墨田区と「人と自然が共生する生活環境の実現に向けた調査研究」の一環として墨田区の雨水利用について共同研究をした成果を報告します。

発表は雨水貯留槽の利用に関する調査結果です。また、タンクが置けなくとも、雨樋から直接プランターの水やりをする「雨樋プランター」をモデル製作し、そのニーズの調査も行いました。

区内730箇所に郵送でアンケート用紙を送り、有効回答があった257箇所についてまとめました。

調査項目:①雨水利用システムの使用現況 ②タンクの設置理由 ③貯留槽の利用者等 ④利用目的 ⑤利用頻度 ⑥維持管理の実態 ⑦大雨予報前の排水 ⑧緑を増やし下水道の負荷を減らすことに関する質問(雨樋プランターの設置意向、設置条件など) ⑧雨水利用、流出抑制、緑化推進に関する意見・感想

結果のまとめ:①天水尊のような小規模タンクの用途は家庭での散水に使用することが多く、ビルに設置することが多い中・大規模のタンクはトイレの洗浄水が多い。

②タンクの規模に関わらず、管理が適切に行われていない、大雨前の計画排水の意義が理解されておらず実施が少ない。特に中大規模の多くが計画排水が不可能な構造になっている。

⓷雨樋プランターの設置は、条件が整えば設置したいとの回答が、東墨田、八広、立花などの地区に多かった。路地園芸が盛んな墨田区では、雨とみどりを組み合わせ楽しみの要素を取り入れて、今後普及していくことが重要と思われた。

④見える化を図って、各タンクの規模や区・都の所有等タンク毎の諸元がわかるようなものを区民に提示していくことが今後重要であろう。

⚫︎墨田区の雨水活用

岩下弘之(墨田区資源環境部長)

墨田区役所は雨水利用をして年間100万円の節約となる(岩下弘之氏スライドより)

墨田区は雨水利用推進指針(平成7年3月制定)に基づき、①区施設には原則雨水施設を導入 ②民間の雨水施設の導入を指導(墨田区開発指導要綱:平成7年12月〜及び墨田区集合住宅条例:平成20年7月〜) ③雨水タンクの設置に対する助成(平成7年10月〜)により、雨水活用を推進してきました。

墨田区役所では1000トンの雨水貯留槽に雨水を貯めて、水洗トイレ洗浄と消防用水槽の補給水に利用して、年間、水道料金に換算すると約100万円の節約になっています。

区内では1トン未満の小規模タンクで見ると、300基以上が設置されましたが、そのうち25年以上が約4割、20〜25年が約2割あり、老朽化したタンクの更新が必要になっています。今後、助成制度のあり方、計画排水についての民間施設への周知などが必要となります。

⚫︎村瀬誠さんからのコメント

10年前、新天地の御殿場に引っ越し自宅に雨水タンクを建設し雨水ライフをはじめ、それを見た近所の人たちが雨をためて飲み始めました。少しずつですが”雨友”を増やしています。これまでの墨田区の雨水活用の人財(ストック)を活かしてすみだに雨友仲間を増やし、未来につなげてほしいと思います。

⚫︎まとめ

コーディネーター:菜原 航

墨田区では近年雨水活用に少し停滞がみられた感があります。村瀬氏の講演や、佐原氏、高橋氏の話からその取り組みの素晴らしさを再認識しました。木下氏や岩下氏から雨水活用の現況と問題点の整理ができました。墨田区は、これまでのように雨水先進都市として他の自治体のお手本となるような施策を展開・発信していきたいと思います。

今後、雨水活用のNext Stageへ、さらに今ある地域力を活かし今回のネットワークで得られた知見を参考にしながら、雨水活用を学び身近に感じてもらう工夫や実践をしていく新たな雨水活用の方策を推進していきたいと思います。

1日目午後からはセッションⅡ分科会「雨水とわたしたちの未来」をテーマに4つの分科会で討議されました。

” 第14回雨水ネットワーク全国大会2024 in すみだ”報告 リンク

(1)雨を活かして、未来へつなごう。〜”第14回雨水ネットワーク全国大会2024 in すみだ”に2200人が集まった

本ページ (2)すみだの雨水〜過去から学び、Next Stageへ〜(セッションⅠ)
(3)雨とネイチャーポジティブ〜雨水を活用した都市緑化の可能性ー立体的緑地と平面的緑地による生物多様性の回復(セッションⅡ-1)
(4) ゼロメートル地帯から考える雨と防災(セッションⅡ-2)
(5) くらしの中の雨水〜見える、楽しむ、活かす(セッションⅡ-3)
(6) 飲む雨水〜インフラとヒトの変化から考える飲むあまみずの近未来(セッションⅡ-4)
(7) セッションⅡ-分科会「雨水と私たちの未来」まとめ
(8)  雨水は世界を救うか?(セッションⅢ)  作業中
(9) すみだ雨水宣言2024
(10) すみだの雨水活用を見てみよう〜エクスカーション
(11) 楽しく雨を体験 〜あまみずフェスティバル

2024年8月3〜4日に開催された第14回雨水ネットワーク全国大会2024 in すみだは「雨水ネットワーク全国大会 in すみだ実行委員会」および墨田区が主催して行いました。実行委員は、地元団体のNPO法人雨水市民の会、NPO法人寺島・玉ノ井まちづくり協議会、中央大学、千葉大学、合同会社アールアンドユー・レゾリューションズ、雨水ネットワーク事務局の公益社団法人雨水貯留浸透技術協会など、18名のメンバーで構成。墨田区は大会会長として山本亨墨田区長、区役所事務局として環境政策課が参加しました。

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