2025.02.01
(5) くらしの中の雨水 〜見える、楽しむ、活かす(セッションⅡ-3)
雨水ネットワーク全国大会 in すみだ実行委員会
”第14回雨水ネットワーク全国大会2024 in すみだ”報告(その5)
セッションⅡ-3 くらしの中の雨水 〜見える、楽しむ、活かす
趣旨:雨の日は億劫だと感じる人も、雨をためて使ってみると、雨が降るのが待ち遠しいと思うようになるかもしれません。40年以上雨をため続けている墨田区には大小合わせておよそ800、総容量で約27,000㎥の雨水タンクがあります。現在、すみだでは雨の流れを見せて景観に活かしたり、たまった雨の量をリアルタイムで見える化する取り組みが進んでいます。この分科会では地元の防災まちづくりや緑化の取り組み、情報技術と連携した事例、東京都の新たな普及施策、長年雨水活用を自宅でされている体験談などをお話していただきます。今大会のキャッチコピーでもある「雨水の力。」を楽しみ、活かし、防災にも役立つ、しなやかなまちづくりのアイデアを考えながら、雨とともにくらす未来を見つめました。

セッションⅡ-3ではくらしの中で楽しく雨水活用をしながら、うるおいでみどり豊かなまちをつくるための方策を考えました。
◾️コーディネーター
笹川みちる(NPO法人雨水市民の会)
雨水市民の会では、「下町×雨・みどりプロジェクト」が現在進行中です。墨田区、千葉大学と共同で区内の既存雨水タンクの実態調査を実施して、セッションⅠで千葉大学の木下先生がお話した通りいろいろな課題が見えてきました。また、雨とみどりを組み合わせた小さなグリーンインフラの実装と効果の検証を行なっています。墨田区はほとんどがコンクリートやアスファルトで覆われ、浸透に適さない場所も多くあります。そのような条件で壁面や隙間を有効に活用して雨をゆっくり流し、楽しみ、雨水でみどりを育み、潤いあるまちにしていきたいと考えています。
これまでの成果として雨水市民の会事務所前、けん玉長屋の外構、吾嬬町ウエスト、既存のカフェ前の雨水スポット等ができました。雨水を積極的に使ったり、雨がつくる景色を楽しむ市民の活動と、国や自治体の治水や都市計画をつなぐ仕組みの連携が大切です。
◾️話題提供者
⚫︎京島の水利活用「雨水と地下水」
金谷直政(京島地区まちづくり協議会、かなや設計)

吾嬬町ウエストは雨水貯留、利用、浸透を兼ね備えた施設だ(金谷直政氏スライドより)
私が住んでいる墨田区京島3丁目は、東京都5192町丁目のうち建物倒壊危険度が2位、火災危険度は23位です。隣の京島2丁目は建物倒壊危険度が1位、火災危険度は3位です。火事が発生すると大変なことになると、各町会では防火のためにまち中に防火タンクを置いて消火訓練もしています。また、40年以上も前から「京島地区まちづくり協議会」が中心になって、道路の拡幅や建物を不燃化する活動をしています。
関東大震災、阪神淡路大震災では、木密地域で水道が断水して消火できず火災により被害が拡大しました。そうならないためには自前の多目的に使える水源の確保が大切です。京島地域では路地尊が12ヶ所あり、雨水が合計140㎥ためられますが、6000人を超える住民が仮にトイレの水に使うと、2日分にも足りません。2016年に協議会内に「水活用勉強会」を立ち上げ、防災井戸の必要性や維持管理をまとめて区役所へ提案しました。これを受けて区役所は2021年に深さ30mの井戸(飲用にはならない)を中心とした協和井戸端広場をつくりました。この広場は他にかまどベンチやマンホールトイレなどの設備や防災グッズも備えていて、各町会で井戸守をしています。
2023年に竣工した京島三丁目北町会の事務所も入っている吾嬬町ウエストは、深さ38mの井戸を掘り、さらに180リットルの雨水貯留をしています。雨水は、屋上の雨を階段下の空間を利用したパイプ型の貯留装置に蓄え、1階のトイレに利用しています。また、敷地内に降った雨水は砂利を敷いて浸透させ、ブドウの苗を植えて育てています。
⚫︎雨樋プランターの試作品の開発について
木下 剛(千葉大学大学院園芸学硏究院 教授)

雨水プランター等設置前後の雨水の流れ(木下剛氏スライドより)
私は国土交通省のグリーンインフラ懇談会の委員をしています。これまでのグリーンインフラは比較的土地に余裕がある地域の開発に取り入れられているケースが多いのですが、墨田のような下町での実践例はなかったように思います。
アメリカでは雨樋プランターに助成を出す自治体もあると聞いています。昨日行われたセッションⅠでもお話ししたとおり、2021〜2023年度に墨田区と共同研究をし、雨水市民の会にもご協力をいただいた「人と自然が共生する生活環境の実現に向けた調査研究」では墨田区北部の雨樋調査と雨樋プランターの試作品をつくりました。試作品は大学院生の高橋菜々子さんが制作をしました。
雨樋調査については、コロナ禍の真っ最中だったことから、Googleのストリートビューを使って、墨田区北部地域を隈なく調査し、合計2万箇所近くの雨樋をプロットしました。このうち雨樋の近くにプランターを置けるスペースがある箇所は40%弱ありました。この調査から道路と家の境の幅40〜55cmのスペースが雨樋プランター設置の候補場所になり得ることがわかりました。
試作品は板を使い、58cm ×40cm×高さ47cmで制作しました。底は幅3cmの水抜きを2本設け、内部は鉢底石5cmの上に軽石3cm、土32cmを重ねています。既存のたて樋にレインキャッチで取水し、18リットルの一斗缶の雨水タンクへ入れ、オーバーフロー水を雨樋プランターへ、ドレン水とプランターからのオーバーフロー水は再度雨樋へ戻すようにしました。タンクは大変小さいのですが、持ち運びできる大きさとし、容量を確保したいときは連結できるということで、このサイズとしました。植物は夏と冬に花が咲く多年草や乾燥に強いハーブ類など8種類を植えました。2023年11月に設置し、6月まで灌水の必要はなく、それ以降は日差しが強い時に葉を濡らす程度でした。現在、雨水タンクは容量をもう少し大きくし、金属製で錆が出たため見た目が良くないので材質の見直しが必要と思っています。雨樋プランター本体は、水抜きが大きすぎて底からの漏水が多いので、もう少し小さくして貯留効果が期待できるものに改良したいと思っています。
また、セッションⅠで述べたことですが、雨をためて流出抑制に繋げるためこの雨樋プランターの雨水貯留効果の実効性についても検討を行っていますが、まだ結論が出ていません。
⚫︎雨水タンクの見える化の取り組み
矢神卓也(株式会社建設技術研究所水システム部流域情報サービス室 室長)

直近の2024年7月31日にゲリラ豪雨が発生した時のすみだRisKma(矢神卓也氏スライドより)
建設技術研究所は日本で最初の建設コンサルタントとして1945年に創立。交通・道路や環境マネジメントなど幅広い事業を展開しています。治水計画やハザードマップの作成のほか、2017年から水災害リスクマッピングシステム(RisKma:リスクマ)を運用しています。地図上で降雨、河川の水位、河川監視カメラの映像などを同時に確認できるシステムとなっています。
今回の”すみだRisKma”は墨田区で年々増加する雨水タンクについて、使用状況や貯水状態の追跡は行われていない現状を改善するために生まれました。この取り組みは、雨水市民の会からの「雨水タンクの水位をリアルタイムで見える化し、大雨前に水位を下げて備える仕組みを作りたい」という相談をきっかけに始まりました。
墨田区は合流式下水道の地域で、時間雨量がおよそ5mmを超えると汚水の一部が川や海に直接放流されます。この現象は年間40回弱発生しているとされ、河川の水質汚濁の一因ともなっています。2024年3月には、すみだ生涯学習センターにある地下雨水タンクに第1号の観測機器を設置し、現在も水位の計測を継続しています。
雨水タンクのRisKmaは貯水状況をリアルタイムでマッピングし、時系列の貯水量も把握できます。今後の雨水の見える化の普及に寄与していきたいです。
⚫︎しみこませる まちづくり

流域対策等強化・推進事業補助の概要(一部抜粋・大川原雄一郎氏スライドより)
大川原雄一郎(東京都都市整備部 都市基盤部調整課統括課長代理(施設設計担当)
気候変動で2050年頃までに降雨量は1割程度増加すると予測されています。東京都でも時間50ミリを超える雨が増加し、毎年洪水が発生していますが、河川や下水道だけでは処理に限界があります。東京都の豪雨対策の基本的な考え方は、河川や下水道で「流す」、貯留施設や雨水タンク等で「ためる」そして浸透ます等で地面に「しみこませる」の 3つです。2023年12月に改訂した東京都豪雨対策基本方針では、気候変動に伴い想定される1.1倍の降雨量に対応し、都内全域で目標降雨を10ミリ上げました。これまでの対策に加えて新たな施策を展開する必要があります。
中でも「流域対策等強化・推進事業補助」は、雨水の流出を抑える「流域対策」と水害に強い「家づくり・まちづくり対策」を行うため、これまで実施してきた流出抑制に関する区市町村が行う事業への助成に、レインガーデン等のグリーンインフラや取組の機運醸成、区市町村が提案する豪雨対策に関する先駆的な取組など、幅広く支援を拡充しております。また、都内で雨水流出抑制に取り組む企業、財団法人、NPOの団体を対象に「雨水しみこみアンバサダー」を募集・認定し、活動内容を東京都のホームページやイベントでPRしていきます。
⚫︎自宅での雨水利用
南 昌子(NPO法人雨水市民の会)

南家の雨水活用(南昌子氏のスライドより)
私の家はまさに雨水利用東京国際会議がすみだで開催された1994年の冬にできました。この時のコンセプトとして、雨水利用、太陽光発電、エアコンを使わない、国産材を使い、化学物質の使用を抑えるために壁紙は使わない、塗料は天然素材のものを使うことなどを設計者にお願いしました。
そしてできたのがこの図のような家です。雨水タンクは家の基礎部分に1mの深さで16畳分あるので25㎥ためられます。屋根からのゴミを除去するために、竪樋を途中で切り、図のようなステンレス製の網をかけていましたが、あまりゴミがないので、現在は外しています。雨水タンクから井戸用ポンプで汲み上げてトイレの水と庭の散水に使っています。手押しポンプもあるのですが、現在はパッキンが固くなって汲み上げられないです。この発表のため、10年ぶり位に雨水タンクのマンホールを開けたのですが、意外に透明度があります。しかし、どこからかボウフラとナメクジが入り込んでしまいました。夏の間はグリーンカーテンの朝夕の水やりに使っていますが、水枯れは全然ありません。また、設置当初はトタンの屋根に散水もしており夏場は室温が2度くらい低くなりましたが、2〜3年で散水管に藻が生えてしまい、目詰まりして使えなくなってしまいました。
たっぷりある雨水で育てたゴーヤやアサガオのグリーンカーテンを楽しんでいます。
▪️会場との意見交換
会場:この会議が始まる前に、すみだの向島・京島地域を歩いてみました。公園に天水尊があり、隣家の雨樋を導いて雨水をためていましたが、住民同士でどのようなやりとりをしたのでしょうか?また、京島地域では天水尊より小さい青いタンクがたくさん置いてあったのが印象的でした。中には水が入ってバケツも備え付けてありました。雨水を入れているのでしょうか?
笹川:公園の場所は多分てらじま広場でしょう。当時のことを知っている会員に聞くと、公園になる前から雨水を貰い水していたそうで、住民同士で話して了解をとってやったそうです。行政では難しいでしょうが、コミュニティがあるすみだらしいところですね。
金谷:京島地域の小さいタンクは、路地尊などができる前からありました。火事の備えに町会が設置し、現在もタンクを確認し水を足したりしてメンテナンスをしています。同じ形のものが多いのは、以前大量にこのタンクをもらって設置したそうです。
木下:グリーンインフラや雨庭などの新しい雨水管理の手法は、比較的知られていて行政の取り組みも多々ありますが、雨樋プランターはあまり知られていないと思われます。誰もが気軽に広められる良い手段だと思うのですが、良い事例を表彰したり、下水道料金の割引対策をするなど、もっとインセンティブを取り入れながら広めていくことが必要だと思います。
矢神:雨水流出抑制の観点から、すみだの雨水タンク800ヶ所の水位が全部リアルタイムで分かり、豪雨の前にタンクを空にすることができると、大変効果が上がると思います。このようなことが実現すると、雨水タンクが役に立っていることが感覚的にも分かってくるでしょう。
大川原:気候変動の進展でこれまで河川や下水道の担当部署がやってきたことだけでは限界があります。みんなでしみこませたりためたりすることで、その限界以上のことができると思います。東京都のしみこみアンバサダーは、広報に力を入れアンバサダーの人たちが広めていくことで、より多くの人に知ってもらい、視野を広げるねらいがあります。すみだのような低地帯ではしみこまないと思いがちですが、先ほど笹川さんが示された外構に一時貯留の場所を作り、雨をゆっくり流すようにするような仕掛けを行えば、すみだのような地域でもしみこみも期待できると思います。
南:ソーラー発電や雨水タンクをつけた当初は、晴れて電気が売れるぞ、雨が降ると雨水タンクにたまって嬉しいと思っていましたが、2、3年も経つとそれも当たり前になってしまいました。雨水活用はコスト的にはそれほどメリットを感じませんが、環境的メリットは大いにあると実感しています。
会場:13.7㎢、人口26万人の墨田区は、1人当たりの年間降水量は80㎥、水道使用量もほぼ同じになります。つまり降った雨を全てためて使うと水道に匹敵するということです。この資産は、雨は貴重な水資源だと実証していると思います。また、南さんの家のように20㎥もある雨水タンクがある場合、災害時に水道が断水しても行政が責任を持って汲めるようにして、周辺の方々に使ってもらうことを考えても良いのではないでしょうか。そのぐらいの公共性の高い取り組みだと思いました。
” 第14回雨水ネットワーク全国大会2024 in すみだ”報告 リンク
(1)雨を活かして、未来へつなごう。〜”第14回雨水ネットワーク全国大会2024 in すみだ”に2200人が集まった
(2)すみだの雨水〜過去から学び、Next Stageへ〜(セッションⅠ)
(3)雨とネイチャーポジティブ〜雨水を活用した都市緑化の可能性ー立体的緑地と平面的緑地による生物多様性の回復(セッションⅡ-1)
(4) ゼロメートル地帯から考える雨と防災(セッションⅡ-2)
本ページ (5) くらしの中の雨水〜見える、楽しむ、活かす(セッションⅡ-3)
(6) 飲む雨水〜インフラとヒトの変化から考える飲むあまみずの近未来(セッションⅡ-4)
(7) セッションⅡ-分科会「雨水と私たちの未来」まとめ
(8) 雨水は世界を救うか?(セッションⅢ) 作業中
(9) すみだ雨水宣言2024
(10) すみだの雨水活用を見てみよう〜エクスカーション
(11) 楽しく雨を体験 〜あまみずフェスティバル
2024年8月3〜4日に開催された第14回雨水ネットワーク全国大会2024 in すみだは「雨水ネットワーク全国大会 in すみだ実行委員会」および墨田区が主催して行いました。実行委員は、地元団体のNPO法人雨水市民の会、NPO法人寺島・玉ノ井まちづくり協議会、中央大学、千葉大学、合同会社アールアンドユー・レゾリューションズ、雨水ネットワーク事務局の公益社団法人雨水貯留浸透技術協会など、18名のメンバーで構成。墨田区は大会会長として山本亨墨田区長、区役所事務局として環境政策課が担いました。