ネットワーク

(3) 雨とネイチャーポジティブ
〜雨水を活用した都市緑化の可能性ー立体的緑地と平面的緑地による生物多様性の回復(セッションⅡ-1)

雨水ネットワーク全国大会 in すみだ実行委員会

”第14回雨水ネットワーク全国大会2024 in すみだ”報告  (その3)

セッションⅡ   分科会

セッションⅡ-1では5人の話題提供者とコーディネーターが雨水とみどりについての実践を発表した。

8月3日の午後からは4つの分科会に分かれ、産官学民の多彩な方々から話題提供していただき、参加者とディスカッションを行いました。

セッションⅡ-1 雨とネイチャーポジティブ〜雨水を活用した都市緑化の可能性〜

▪️趣旨:墨田区はゼロメートル地帯にあり、雨水が地中に浸透しにくく、内水氾濫のリスクが高い地域です。都市を生態系の一部と捉え、都市での生物多様性の回復と雨水を活かしたネイチャーポジティブなまちづくりを実践する設計者、研究者、行政、市民、企業など多方面の視点で5名の方々に話題提供をいただき、コーディネーターを交えて議論しました。

◾️コーディネーター

⚫︎屋上のナチュラリスティックガーデン〜粗放的かつ持続的な屋上緑化手法の開発〜

霜田亮祐(千葉大学大学院園芸学研究院 准教授)

学校の屋上のナチュラリスティックガーデン(霜田亮祐氏スライドより)

現在、私たちの社会を支える生態系サービスは過去50年間で劣化し、生物多様性の損失が問題となっています。それを回復させるため「ネイチャーポジティブ」に向けた行動が急務です。墨田区は緑被率10%程度で、23区平均の20%からしても「緑の少ない地域」と言えます。しかし、特徴のある公共緑地の「緑と花の学習園」や屋上・壁面緑化や鉢植え園芸なども盛んで、身近に緑を求める住民は多いです。こんな土地柄で、雨水市民の会と連携し、同団体の事務所前に風呂敷プランターの棚式緑地と野の花花壇を作りました。このようなささやかな緑地ですが、例えば1世帯1㎡の緑地を作れば、17万世帯では17haの緑地となり、緑被率を12%に向上させることができます。

私の研究室では、墨田区からの受託研究の一環で粗放的で持続可能な屋上緑化の手法の開発と実証をしています。1年間、学校の屋上の庭を雨水だけの受動的灌水で観察しました。その結果、植物の種類によってはその場に根付き、生態系が生まれました。また、BIONESTとしてDRI(千葉大学DRI墨田サテライトキャンパス)の敷地内の立ち枯れした草で鳥の巣のように造形して、その中に除草した草を入れて、焼却処分せずに時間をかけて分解させるような活動も行っております。これは「分解のデザイン」とも言える、カーボンニュートラルのための小さな一歩です。

◾️話題提供者

⚫︎平地の下町すみだに、緑と農を通し自然の仕組みを体感〜都会にこそ、農的空間を創り出し、雨も含む自然循環を学ぼう〜

牛久光次NPO法人寺島・玉ノ井まちづくり協議会 理事長)

たもんじ交流農園の雨水タンクは多聞寺の雨水タンクのオーバーフロー水や隣宅の雨樋からの貰い水(牛久光次氏スライドより)

ちょうど30年前に雨水利用東京国際会議が開催された頃、建築建材で発症する化学物質過敏症が話題になり、自然素材の活用と省エネルギーを意識した建物を造ることにこだわり、雨水タンクから屋上や壁面の緑化に自動灌水装置も自作しました。もっと身近に雨を活用する実感を持ちたいと思い、まちに農地をつくろうと、多聞寺の協力を得て2017年から3年間かけて手作りでたもんじ交流農園を仲間たちとつくりました。

多聞寺は「雨水寺」と言われ、大きな雨水タンクがあり、そのオーバーフロー水や隣家の雨樋を借りて雨水を集め、農地の水やりに使っています。また、雨水と地下水で循環させる多様な生物の棲家のためのビオトープもつくりました。さらにすみだに蛍を蘇らせたいと、蛍の幼虫を育てています。農園で土にふれ、植物や生物と向き合っていると気候変動の影響を如実に感じます。だからこそ、墨田区内にもっと農園や雨庭を作って、下町すみだを自然豊かな里山的空間としていきたいと考えています。

⚫︎住宅都市世田谷における「自分でもできる雨庭づくり」の取り組み

角屋ゆず一般財団法人世田谷トラストまちづくり トラストみどり課主任)

宅地が7割を占める世田谷では区民一人ひとりがグリーンインフラに取り組むことが大切と、世田谷トラストまちづくりでは雨庭の推奨をしている

(一財)世田谷トラストまちづくりは、世田谷でみどり保全のトラスト運動を行なっていた(財)せたがやトラスト協会と、住民のまちづくり活動を支援していた(財)世田谷区都市整備公社が2006 年に統合してつくられ、区民主体の良好な環境形成、参加・連携・協働のまちづくり支援を行なっています。

現在、区内の30ヵ所以上の緑地・公園などの約半数で区民のボランティアが関わっており、家や庭をオーナー自らコモンズとして地域にひらくための「地域共生のいえ」「小さな森」などのご支援もしています。このような取り組みのひとつとして、区民が個人宅で実践しやすい「自分でもできる雨庭づくり」を2020年度にスタートしました。

「自分でもできる雨庭」とは、①ホームセンターで気軽に購入できる材料を使い、手づくりできる ②ガーデニングの延長線上で植物を育てる楽しみを享受できる ③生きもののすみかとなる環境を提供できることをコンセプトとしています。2021年度からは「世田谷グリーンインフラ学校(区から委託)」がスタート。この4年間で81名が卒業しました。2023年度には1坪の雨庭づくりの手順や材料、ちょっとしたコツを伝えるセルフガイド「自分でもできる雨庭の手引き」を作りました。現在は、雨庭の植栽維持管理を学ぶことができる定例活動を奥沢二丁目公園の雨庭で行っており(instagram「#奥沢コミュニティ雨庭」で発信)2024年度から、市民ニーズを受け「雨庭の相談窓口」を試行し、ご相談を受けているところです。

⚫︎「ねばならぬ」と「たのしさ」を考える

向山雅之(株式会社竹中工務店 設計本部 アドバンストデザイン部ランドスケープグループ長)

むさしのエコreゾートで市民による雨にわワークショップの様子(向山雅之氏スライドより)

私が取り組んでいるランドスケープデザインの仕事は、関係者と共に土地利用のライフサイクル全般に関わります。人と自然に対して適切に関わることで、人と自然の健康を保ち、自然共生社会の実現を目指しています。会社とNPOでの取組事例を紹介します。

勤務先の江東区・新砂地区が東京都の「運河ルネッサンス」の指定を受けました。地元の町会・竹中工務店を含む企業・団体や区役所などで協議会を作り、国交省の補助金をもらいグリーンインフラを導入しながら、雨水流出抑制、生物多様性の向上、地域コミュニティ醸成を目指しています。南北に点在する会社の敷地に雨にわ・カフェ・モビリティハブを設置し、運河までつながるグリーンストリートの形成を進めています。雨にわでは地元の方も参加して植物を植え、カフェやモビリティハブを設置した運河につながる公園でのマルシェや、運河でのEボートレースなどを通じ、緑と水が豊かなまちを育む活動を実践しています。

もうひとつは、NPO法人雨水まちづくりサポートの事業で行った雨にわワークショップです。武蔵野市のむさしのエコreゾートの一画に、米国コカ・コーラ財団の助成金を使い、武蔵野市の協力を得て、市民・市・専門技術者・専門会社が連携して雨にわをつくりました。計5回のワークショップを通じ、雨にわのデザインから施工、植物の植え付け、維持管理の方針づくりなどを行いました。ものづくりと共に、計画的に計測機器を設置し効果評価の見える化を行っているのが特徴です。

⚫︎雨とネイチャーポジティブ 墨田区の緑化政策等について

第2次墨田区緑の基本計画・墨田区生物多様性地域戦略(2022年3月〜2040年)

山中淳一(墨田区資源環境部環境保全課長)

墨田区のネイチャーポジティブの取り組みは、「第二次墨田区緑の基本計画」と「墨田区生物多様性地域戦略」としてまとめています。区の地勢は荒川と隅田川に囲まれ、区内には大小8河川が流れ、大部分がゼロメートル地帯です。少し古いデータですが、緑の指標である緑被率では23区中20位、10.7%で、緑が少ない状況です。

このような中、条例や要綱を制定し、緑地の整備と雨水の浸透と貯留をお願いしています。少しずつですが、この20年間で東京ドームに5個分に相当する緑地を整備していただきました。また、雨水の貯留槽も2万6千トンを超えています。

広大な緑地などがあれば、その地域全体の自然を保全して、回復していく方法もありますが、その地域が少ない墨田区では、小さな面積であっても、少しずつ自然を回復させていく施策を地道に続けています。

 

 

⚫︎緑のもつ雨水貯留浸透機能+αを都市計画に実装する

竹内智子(千葉大学大学院園芸学研究院 准教授)

石神井川流域の雨水浸透の変遷 上図:1950年以前の土地利用、下図:1950年頃~2020年頃の間に失った雨水浸透量の変化(板谷・竹内(2023)より)

近年、世界中で豪雨による都市型洪水が頻発しており、健全な水循環の再生が重要です。都市でも雨水を「ためる」ことと「しみこませる」ことが必要です。

私は都庁で造園職として公園緑地行政に従事、緑と水を繋ぐ実効性ある政策づくりを目指してきました。「東京都豪雨対策基本方針」が当初策定された際(2007年)には、流域対策としての緑の保全と創出を方針に位置づけました。同時期に策定された「都市計画公園・緑地の整備方針」(東京都・区市町2006)にも、雨水の流出抑制に寄与する公園を優先的に整備するとし、豪雨対策と公園緑地政策の連携の基礎をつくりました。この「東京都豪雨対策基本方針」は2023年に改定され、目標降雨が10ミリ引き上げられました。都市計画、河川、下水の部署のほか、公園緑地部署もこの方針を進めていく必要があります。

私は、現在、千葉大で教育・研究活動をしています。石神井川流域の雨水浸透機能について時代を追って評価しています。石神井川中流域の研究では、市街化の影響により、1950年以前〜1990年頃の間で雨水浸透量が78.9%に減少し、さらに市街化後の1990年頃〜2020年頃にも31.4%減少(=雨水浸透量の16.9万㎥喪失、同時期の流域対策の実施量の約55%に相当、目標値の約41%に相当)していることを示しました。

実効性ある広域緑地計画に向け、「緑確保の総合的な方針」(東京都・特別区・市町村2020改定)では、農地も含めた緑地の保全を定めています。今後さらに自治体の政策にも流域対策に資する公園緑地の整備や土地利用誘導を反映させていく必要があります。例えば、雨水があまりししみこまない場所では、降った雨をその場所で貯留し雨水のピーク流出を抑制する「オンサイト貯留化」を公園や公共施設で積極的に推進、しみこむ場所では、雨水を時間をかけて地下へ浸透させるレインガーデンを整備するなど、その場所に合わせた対策が重要です。

「ためる」「しみこむ」+αの緑地の要素としては、これまでの皆さんの報告からわかるように、心身の健康、生物多様性の向上、コミュニティの醸成、景観の向上、まちの魅力等があります。このような緑地の持つ重要な機能を可視化して評価し、制度化する取り組みを広げることが必要ですし、それを実施していきたいと考えています。

◾️まとめ

竹内先生の話でまとめになった気がしますが、雨庭の再定義として一定の答えがでてきたと思います。雨庭は雨水を浸透させるだけでなく、ためるレインガーデンもあるでしょう。また浸透の適地は個々の地域・地質で違うし、それは広域の計画でも重要な役割を果たします。雨庭の導入の結果として生物多様性を回復させること等にもつながり、雨庭の可能性が広がる話になりました。


” 第14回雨水ネットワーク全国大会2024 in すみだ”報告 リンク
(1)雨を活かして、未来へつなごう。〜”第14回雨水ネットワーク全国大会2024 in すみだ”に2200人が集まった
(2)すみだの雨水〜過去から学び、Next Stageへ〜(セッションⅠ)
本ページ (3)雨とネイチャーポジティブ〜雨水を活用した都市緑化の可能性ー立体的緑地と平面的緑地による生物多様性の回復(セッションⅡ-1)
(4) ゼロメートル地帯から考える雨と防災(セッションⅡ-2
(5) くらしの中の雨水〜見える、楽しむ、活かす(セッションⅡ-3)
(6) 飲む雨水〜インフラとヒトの変化から考える飲むあまみずの近未来(セッションⅡ-4)
(7) セッションⅡ-分科会「雨水と私たちの未来」まとめ
(8)  雨水は世界を救うか?(セッションⅢ)  作業中
(9) すみだ雨水宣言2024
(10) すみだの雨水活用を見てみよう〜エクスカーション
(11) 楽しく雨を体験 〜あまみずフェスティバル

2024年8月3〜4日に開催された第14回雨水ネットワーク全国大会2024 in すみだは「雨水ネットワーク全国大会 in すみだ実行委員会」および墨田区が主催して行いました。実行委員は、地元団体のNPO法人雨水市民の会、NPO法人寺島・玉ノ井まちづくり協議会、中央大学、千葉大学、合同会社アールアンドユー・レゾリューションズ、雨水ネットワーク事務局の公益社団法人雨水貯留浸透技術協会など、18名のメンバーで構成。墨田区は大会会長として山本亨墨田区長、区役所事務局として環境政策課が参加しました。

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