ひと・市民

新築雨水ハウスを拝見

小川幸正(雨水市民の会理事)

東京都練馬区に、当会の高橋朝子理事の雨水ハウスが2016年2月に完成しました。早速「Webあまみず」の取材兼お宅拝見で、有志のメンバー7名で5月6日にお伺いしました。高橋理事に雨水コーヒーをごちそうになりながら、雨水利用の説明を聞きました。

住宅建設を受注した工務店は雨水利用の経験がなく、雨水利用システムは当会の主要メンバーであるサンエービルドシステム株式会社に発注されました。雨水利用はまだ経験のない工務店が多いのが現実と再認識しました。

雨水利用のシステム

高橋理事邸は、木造3階建て、建築面積約85㎡、延床面積約199㎡、屋根面積約95㎡です。雨水は屋根の約半分の面積53.25㎡から集水し、竪樋に設置したフィルターを経て、駐車場下の容量2m³の雨水タンクに貯留されます。

写真1 竪樋に取り付けられたごみを取り除くためのフィルター(商品名:ライナスフィルター) 図2 ライナスフィルターの構造図(シップスレインワールド㈱ホームページより引用)

写真1 竪樋に取り付けられたごみを取り除くためのフィルター(商品名:ライナスフィルター)
図1 ライナスフィルターの構造図(シップスレインワールド㈱ホームページより引用)

雨水利用の装置を具体的にみてみましょう。竪樋に設置されているフィルター(写真1)は、樋に流れる雨水から落葉や小さなごみを自動的に樋から外に排除する仕組みとなっており、2段構造になっています。1段目が葉などを除去する粗目のフィルターで、2段目が0.55㎜間隔のステンレス製フィルターとなっています。フィルターの構造は図1を参照ください。

雨水タンクは、写真2の建物前の駐車場の下に埋設されており、ポリプロピレン製の容量が2m³のユニット型タンクです。タンクの手前にバスケットのある枡があり、本体には点検用ならびに沈殿物の掃除用開口部が3カ所あります。タンク内部に人が入らなくて清掃できる様になっており、沈殿物は底部の勾配で1か所に集まり、開口部から吸引するようになっています。雨水タンクからは、平時には井戸用ポンプで1階のトイレの洗浄水ならびに散水用の水栓へ送水されます。また、手動ポンプに接続して停電時にも汲み出せるようにもなっています。このイメージ図を図2に示します。(図2参照)

写真2 建物の外観。駐車場の丸印の地下に雨水タンク(タキロン製・商品名「雨水倉庫Ⅱ」)がある。 図2 雨水利用システム図。竪樋から細かい沈殿物を取り除くことができるバスケットを通過して、タンクへ流入。通常は井戸ポンプからトイレと散水栓で使用。災害時にも使えるように手動ポンプに連結できる。

写真2-1(左) 建物の外観。駐車場の丸印の地下に雨水タンク(タキロン製・商品名「雨水倉庫Ⅱ」)がある。
写真2-2(右) 穴を掘り、雨水タンクを埋めた。(写真提供:サンエービルドシステム株式会社)
図2 雨水利用システム図。竪樋から細かい沈殿物を取り除くことができるバスケットを通過して、タンクへ流入。通常は井戸ポンプからトイレと散水栓で使用。災害時にも使えるように手動ポンプに連結できる

1階のトイレ洗浄水は通常雨水を使用しますが、雨水タンクの水位が低くなると、給水栓の手動切り替えで水道水を使用します。トイレ内の水栓近くのランプは、雨水タンクの水位が低くなると水道水への切り替えを知らせる仕組みになっています。この雨水使用可否表示灯は、同行した安藤幹事の発明品です。

気になる雨水利用の費用ですが、総額83万円(雨水タンク・フィルター・ポンプ類等で約44万円、タンクの埋設工事で約10万円、配管工事費等で29万円)かかったそうです。

雨水使用量の実績と水質測定値

雨水は前述の様に、1階のトイレ洗浄水、散水、洗車に使われています。雨水使用の実績値は、今年の3月と4月における1日当たりの使用量が66.7ℓで、1階に3名がお住いなので1人当たりの使用水量は22.2ℓ/日になります。なお、トイレの洗浄水量は、1回当たり大が5ℓ、小が3.8ℓで、これまでは全て雨水で賄われているそうです。従来一般的に言われてきたトイレ洗浄水量の50ℓ/(日・人)と比べると半分の洗浄水使用量になります。また、温水洗浄便座用には水道水を使うため、雨水の洗浄用と2系統としなければなりませんが、数あるメーカーのトイレの主流はタンクレスやロータンクがあっても1系統で、該当のトイレを探すのに苦労したとのことです。TOTOでは雨水用のトイレがありますが、価格が高過ぎ、適当なものはLIXILの1つの型式しかなかったそうです。

雨水の水質分析もされており、結果は表1の通りで、一般細菌*を除いて良好な水質であることが分かります。衛生的見地からは、大腸菌が検出されないことが重要であり、一般細菌は自然界では検出されるのは当たり前のことです。しかし、雑用水にも消毒用の塩素を入れなければならないという法律がありますが、使用条件などによる塩素添加の見直しが必要と思います。

(水質分析結果:2016年4月19日採水東京食品技術研究所で分析)

pH:5.8、臭気:異常なし、色度:1.7度、濁度:0.7度、亜硝酸態窒素:0.015㎎/ℓ、

硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素:1.0㎎/ℓ未満、塩化物イオン:1.6㎎/ℓ、有機物(TOC):0.9㎎/ℓ、

大腸菌:不検出、一般細菌:8,000個/mℓ、硬度:5㎎/ℓ未満

高橋理事邸の雨水利用を拝見して、都市部の住宅でも駐車場の下にユニット型の雨水タンクを設置して、トイレ洗浄水や散水・洗車に使用することが十分可能であることを再度実感しました。また、地下のタンクに雨水を入れる前に竪樋のフィルターで落ち葉やゴミを確実に排除することで、タンク内の清掃は長期間不要になります。しかもフィルターからの落ち葉やゴミは自動的に排除されますので手間いらずです。まさに実用的な雨水利用の事例を見ることができました。

省エネルギーにも配慮!

高橋理事邸は、雨水利用だけでなく省エネルギーにも配慮されています。ここでは特に重点を置かれている「エネファーム」と「断熱窓」をご紹介します。エネファームは都市ガスを燃料にした燃料電池による発電と温水利用です。熱換算の総合利用効率がよいのはテレビなどでも放映されています。断熱窓は、南面に極めて断熱性能が高いトリプル(3層)ガラス窓が使われており、アルミ樹脂サッシにLow-Eのトリプルガラスをはめ込み、内部をアルゴンガスで充填したものです。この断熱窓は、従来のアルミサッシの単層ガラスに比べて熱ロスを83%カットできるそうです。色々な説明をリビングでお聞きしてあっという間に時間が過ぎてしまいました。高橋理事には上記以外にも多くの説明や案内を頂き、ありがとうございました。その後に、近くの石神井公園に向かいました。

石神井公園の歴史と生き物を体験

石神井公園では、「やと(谷戸)じい」と呼ばれている平田英二さんと待ち合わせし、公園内の歴史と生き物などを説明頂きました。平田さんはこの辺りの「やと・やつ」と呼ばれる地形に詳しい方で、本会が企画・運営協力している武蔵野市の「水の学校」でも講師をされた方です。そのため、笹川理事の紹介で今回特別に石神井公園内を散策しながら、その歴史や水生植物・生物などの説明をして貰いました。23区内に残された貴重な自然や史跡を堪能していると、当初予定した1時間程度の散策時間が2時間になり、後半は外灯の明かりで散策する時間になってしまいました。そのため、本日の話を思い出しながら、再度明るい時間帯にゆっくりと石神井公園を散策したいと思います。平田さん、熱心な説明をありがとうございました。

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