活動記録

雨タスサロン⑧雨+離島(2017.9.21)
~雨まちづくりで目指す持続可能な離島振興
笠井利浩さん(福井工業大学教授)のお話

柴 早苗(雨水市民の会理事)

今夏、赤島にて3週間かけて8人(笠井利浩先生・近藤晶先生学生6名)で行った、雨水活用システム設置の状況報告を伺いました。お話の中で、活動に参加した大学院生がつくった動画なども視聴し、とても臨場感あふれる報告でした。笠井先生は、7月9日の雨水市民の会活動研究発表会で発表され、Webあまみずにも掲載されていますが、その後の活動報告です。

五島列島の赤島ってどこ?

図-1 長崎県五島市赤島の位置

長崎県五島市赤島の位置

赤島は、東シナ海に広がる五島列島の一つで、アクセスは福江島から日に2回の定期便で約25分のところにある。広さは東京ディズニーランドとほぼ同じ約0.52k㎡であり最高点は54m、周囲長は4.7㎞、島民は16名(常時10名程度)というコンパクトな島である。電気は海底ケーブルで繋がっており不自由なく使えるが、水については水道はもちろん地下水や河川水もなく、生活用水の一切を屋根に降る雨水をコンクリート製のタンクに溜めて使用している。年間降水量は2000~2400㎜と多めだが、集水面積の小ささから各戸の5~10トン程度の雨水タンクでは十分な水を確保できていない。十分な水がないために経済活動ができず、結果的に島への若い人の移住も期待できない。そこで笠井先生たちの出番となった。

水源の確保が難しい島の事情

赤島以外にも水に困っている島があり、五島列島にある小値賀島(おぢかじま)では、昔、水不足から海水混じりの水を飲んだために眼が悪くなるということもあったらしい。そのようなことから、小値賀島町では、選挙の公約にまで水問題の解決が取り上げられてきたとの話も伺った。そういえば、五島列島以外にも、宮古島の近くにある大神島、伊豆七島の式根島や瀬戸内の島々など、昔から雨水を水源にしている島々が確かに多い。雨水活用は持続可能な島のくらしを確保し、島の活性化やグリーンツーリズムの一つとして離島振興にもつなげられる。今回の事例は、水道水の代替として蓄雨*に基づく“雨まちづくり**”の先進事例として位置づけられ、将来的には同じ状況下にある東南アジア諸国の各地に展開できるのではないかと笠井先生たちは考えている。

*蓄雨:雨をその敷地内にとどめること。防災(雨水備蓄)、治水(流出抑制)、利水(雨水利用)、環境(浸透・蒸発散、生態系)などを目的とした雨水活用は、従来の下水道システムなど雨を流し去る「フロー」の考え方から、できるだけ分散させ雨をとどめて活用する「ストック」の考え方に転換していくことが必要となっている。2016年に作成された「雨水活用技術規準(日本建築学会環境基準AIJES-W0003-2016)」(日本建築学会、2016年発行)にその考え方及び活用法が掲載されている。(Webあまみず関連記事:「雨水活用技術規準」が出版されました」(小川幸正さんレポート、2016.4.23)他2レポートあり)

**雨まちづくりYou Tube 「蓄雨 ~雨をとどめる街づくり~」

開墾から始まった”雨畑”

まず最初に、持参したドローン2台を使って島全体を俯瞰した。島民が維持管理しやすいことや海の塩の影響等を考慮して島の真ん中が集水面(「雨畑」と呼ぶ。)に適しているとわかったが、50年も放置された土地であり、持ち主を特定する作業が必要となった。手続きを済ませた後、やっと雨畑(約50㎡)設置に向けた開墾作業を開始することができた。8月の暑い最中、除草や木々の伐採作業を人海戦術で行った様子を早回しの動画で見させていただいたが、その労働の過酷さが伝わってきた。

赤島には宿泊施設がないため、一行が泊まったのは公民館。福江島で食糧を買い込んで、当番制の自炊生活で3週間の活動期間を乗り切った。昼は毎日レトルトカレーと変化に乏しい中、島民からの差し入れの魚等が有難かったそうだ。

雨畑で十分な自前の水源を確保

開墾地の傾斜度は想定していた集水面のそれと同様であったため、支柱の高さも同じままで、胸の高さ位に白いポリカーボネートの波板と集水出口にゴミ取り用メッシュを敷設することができた。雨畑は住民の住む地域の通り道近くにあり、配管は150m程度と短めで済むとのこと。今後、公民館横に30トンの貯水タンクを設置し、各家庭に配水することを予定している。島内に正式に保健所の営業許可を取った宿泊施設ができるように、水質にも配慮しようと笠井先生は考えている。

今後は、島内の水使用量を個別管理し、ゆくゆくはスマートシティならぬスマートウォーターの要領で、福井で遠隔管理することを考え中とのことであった。

赤島プロジェクト 天水を水源とした給水システム構成図

赤島プロジェクト 天水を水源とした給水システム構成図

赤島”雨畑”ユニット2017(しまあめラボ「雨を収穫する”雨畑”構想の紹介」http://shimaame.ameyuki-cafe.net/?p=375 より)

赤島”雨畑”ユニット2017(しまあめラボ「雨を収穫する”雨畑”構想の紹介」http://shimaame.ameyuki-cafe.net/?p=375 より)

雨水で赤島の活性化を願う

現在設置中のシステムは、主に福井工業大学の資金で賄い、それに協賛企業等二十数社の資金協力や資材等の無償提供等で設置を行っている。今後は、さらに企業の協賛金やファンドなどを活用してシステムの追加導入を行っていくそうである。

またその他にも、赤島の活性化に向けて島内の様子をGoogle Street Viewに登録して、360°見られるようにしたり、ドローンで撮影した映像をコンピュータ処理して高精度の3Dマップを制作したりした。また、今回の活動は地元のテレビ局や新聞などでも取り上げられ、広く報道された。

今回の活動の中で赤島に隣接する無人島に行くことがあり、飲み物を忘れたために水の大切さをしみじみ体感したこともあったとのこと。また、赤島にはお店がなく、お金は無用の長物であった。しかし、新鮮な魚の差し入れなど島の人たちとのふれあいが何よりの宝だという。水の多寡で自ずと制限はあるが、雨水活用システムが本格稼働し、雨水が水源として安定的に確保されれば、住みやすい島、あるいは行ってみたい観光地としてのポテンシャルも秘めているプロジェクトだと感じたそうだ。

今後の展開・発展に期待したい。

参考:YouTube 五島列島赤島活性化プロジェクト2017報告会:https://www.youtube.com/watch?v=CPsqVtbB2Po&feature=youtu.be

   しまあめラボ:http://shimaame.ameyuki-cafe.net/

   しまあめラボfacebook:https://www.facebook.com/shima.ame.lab/

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