活動記録

雨水はきれい!~大気汚染物質と微生物を探る~
雨水タンク水の精密検査結果の報告(その1)

柴 早苗・高橋朝子(安心して雨水を使うための水質検査担当)

汚いと思われている雨水

実際に雨水活用をしている人は、雨をきれいと感じています。一方で、雨水活用が身近でない人たちは、概して「雨水は汚い」と捉えている場合が多い気がします。道路の側溝に流れていく汚れた水や、「酸性雨」や「PM2.5といった大気汚染物質の混入が想起されるからでしょうか。子どもたちの自由研究でも、雨水は汚いからろ過してきれいにするといった発想で、実験結果をまとめる事例も見受けられます。子どもたちも実際に観察せずに、大人たちの固定概念を鵜呑みにしているように思えて、少し寂しい気もします。

雨水に対するこのような負のイメージを払拭して、雨水を身近に、そして災害時には生活用水として積極的に使用していけるよう、雨水の水質の実態を多少とも明らかにして、広く周知することが大切と考え、昨年夏から水質調査を進めてきました。そして、この度、大気汚染と微生物の観点から更に詳しい検査を実施したので、結果報告をします。

きれいだけど、気になる大気汚染と微生物

雨水は空中で受け止めうる自然水であり、地面や川の不純物等が混入してくることはなく、大気中に含まれる汚染物質が主な気になる要素です。

大気汚染は、ガスや粒子状物質などが引き起こすもので、酸性雨や光化学スモッグの原因となり、そのほとんどは自動車の排気ガスや工場の煙など化石燃料を燃やして発生します。近年、日本は、工場などから排出される大気汚染物質の濃度や総量の規制を行ってきたことや、低硫黄重油や硫黄分の低減化された軽油や灯油の普及により、大気汚染はかなり改善しています。特に首都圏の九都県市(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、横浜市、川崎市、千葉市、さいたま市、相模原市)では、国に先駆けて2003(平成15)年10月以降、ディーゼル車規制や粒子状物質減少装置の共同指定や広報活動を連携して行ってきています。また昨今のハイブリッド車や電気自動車などエコカーの普及も功を奏していると思われます。

大気汚染物質は長期に摂取することによる健康被害が懸念されますが、病原性微生物の汚染は急性的に影響の出ることがあります。ウィルスや病原性細菌などの混入があるか否かも気になるところです。それらは煮沸消毒等によって解除することができますが、存在の実態をいくつかの指標で把握したいと考えました。

雨水タンク水の水質検査の経緯と今回の調査内容

実際に雨水活用する場合、雨をタンクにためて使います。そこで、タンクにたまった雨水を調査し、大気汚染の痕跡や酸性雨の程度を調べました。第一弾として2015年7月から2016年6月まで、雨水のpHと電気伝導率の簡易検査を実施しました。その結果、pHは私たちの生活上許容範囲であること、電気伝導率は120μS/㎝以下が9割を超えていて問題はそれほどなさそうだとわかりました。(参照:「雨水水質調査事業の中間報告」柴早苗・高橋朝子レポート、当会HP 2016.08.01 掲載)その検査結果のうち、首都圏の46調査地点について、タンクの材質別にpHの分布をみてみると、図1の通りでした。

図1 雨水タンクの材質別pH分布(首都圏・2015年7月~2016年6月調査)

図1 雨水タンクの材質別pH分布(首都圏・2015年7月~2016年6月調査)

しかし2項目では限界があるため、第二弾として今回、大気汚染や酸性雨の影響が強く出ると思われる幹線道路近辺や、都心部から離れた周辺地域でpHが比較的低めのタンク水(容量200ℓ~2㎥以上)を選び、水質がどの程度かを判断するため、精密検査を以下のように行いました。

◎実施内容

●実施日:2016年9月6日及び13日

●採水場所:11カ所(墨田区5か所、葛飾区・世田谷区・練馬区・小平市・羽村市・神奈川県茅ケ崎市 各1カ所)

●検査項目:19項目

一般細菌・大腸菌・レジオネラ属菌・有機物(全有機炭素(TOC)の量)・pH値・臭気・色度・濁度・塩化物イオン・硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素・亜硝酸態窒素・カルシウム及びマグネシウム等(硬度)・金属元素等(銅・亜鉛・マンガン・バナジウム・ヒ素・鉄)・硫酸イオン

●分析機関:株式会社山梨県環境科学検査センター(冷蔵による宅急便にて送付)(検査方法:厚生労働省告示第261号、上水試験法(2011年版)等による)

●その他:検査実施時期は、8月中下旬の連続的に襲来した台風の影響等で、雨の多い時期でした。

pH等大気汚染にかかわる検査結果

今回の精密検査結果では、雨水タンク水のpH値については、前述した簡易検査結果の分布内に収まり、同様の結果でした。ほぼ雨水そのもののpHを示すプラスチック樹脂製のタンク水7件のうち、pH値5未満の酸性雨の領域にあったのは3件(小平市・羽村市・茅ケ崎市)で、他は水道水と同様の6~7程度でした。環境省の雨量計によるモニタリング結果1)と比較してみたところ、東京(北の丸公園)では、平成22~26年度は4.79~5.03で平均は4.89であり、pH値5未満の3件はそれよりも若干低めでした。(平成20~24年度の日本の27~31地点における降水中の平均pH4.60~5.21)

コンクリート製では、4件のうち2件はpH値が9以上と、そのアク成分の影響がまだ残っている一方、その他の2件は7.1と7.6で中性に近く、水の入れ替わりが多く中性化してきたと思われました。

pHを低くする要因には陰イオンが多いことがあります。このうち、硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素は、車が走行する道路や工場等で発生する排ガスが主な要因で増えます。大気汚染物質として表現される硝酸イオンとして硝酸態窒素を換算したところ、1.28~10.2 mg/ℓとなりました。また亜硝酸態窒素は、かなり低い濃度でも発がん性への影響があることから、水道水では0.04mg/ℓという基準があります。今回、高いものでも0.014 mg/ℓとその基準の35%であり、基準の10%以上だったのは3件に留まりました。

雨水タンク水に含まれる陰イオンと環境省の酸性雨モニタリング調査結果*の比較 (*平成26年度東京・三の丸公園)  単位mg/ℓ

表1 雨水タンク水の陰イオンと環境省の酸性雨モニタリング調査結果*の比較
(*平成26年度東京・三の丸公園)  単位mg/ℓ

塩化物イオンは、地質に由来し自然水には多少とも含まれていますが、海水のしぶきや融雪のために撒いた塩等の影響で高くなります。いずれも1.0~5.6 mg/ℓと1桁台であり、水道水の基準の3%にも満たない値でした。

硫酸イオンは水道水の水質基準にはありません。地質に含まれており、また硝酸イオンと同様に化石燃料の燃焼によって生じます。10件は1桁台でしたが、1件だけ10 mg/ℓ強あり、幹線道路に面していることや駐車スペースの排ガスの影響が出たものと推察されました。

これら3つの陰イオンを、環境省の平成26年度の酸性雨モニタリング調査の東京(三の丸公園)のデータを表1の通り比較してみたところ、いずれも環境省のデータと概ね同レベルにあると思われました(表1)。

図2 塩化物イオンと硫酸イオンの相関図

図2 塩化物イオンと硫酸イオンの相関図

大気汚染の観点からは、塩化物イオンや硫酸イオンについては、海塩性のものを除いて論議することが一般に行われています。しかし今回は非海塩性の濃度がわからないため、酸性雨への寄与の程度を判断できませんが、屋根等集水用部材を経由した雨水でも、3種のイオンとも同程度の汚染と思われました。

また、図2のように塩化物イオンと硫酸イオンは相関(相関係数γ*=0.97)がみられました。γが1に近いほど相関性は強く、挙動が近しく、似通っているということです。一方、硝酸イオンについては両イオンとの関連性は見受けられませんでした。このことの意味は不明です。さらに、反応性の高いオゾンの二次的関与で、二酸化硫黄や窒素酸化物(NOx、主にNOとNO2 )を酸化することもあるとのことで、大気汚染のメカニズムは複雑です。

*γ:ガンマという。相関係数を表す記号。

金属元素等について

図3 電気伝導率と硬度の相関図

図3 電気伝導率と硬度の相関図

水に溶かすと陽イオンになる金属元素等は、自動車の排ガスや工場の生産活動に伴い発生するものや、越境移動で遠く大陸からもたらされるもの、屋根材等からの溶出も想定されます。検出量・件数の多い順に並べると、硬度(カルシウム及びマグネシウム)>亜鉛>銅>マンガン>鉄>ヒ素・バナジウムでした。

カルシウム及びマグネシウム等(硬度)、( 以下「硬度」という。)]は起源は地質によるものが主体であり、自然水に一番多く含まれる陽イオンと考えられます。硬度は高いもので30 mg/ℓ弱と、すべて軟水でした。電気伝導率との相関をみたところ、図3のようにかなりよい相関性(相関係数γ=0.94)が確認できました。これは、電気伝導率をみていくと、ある程度硬度の値も予測がつくということを意味します。

亜鉛は、ガルバリウム鋼板の屋根からの溶出と思われた1件は水道水の水質基準1.0 mg/ℓを少し上回っていましたが、他は高いものでも水道水の水質基準1.0mg/ℓの3割未満でした。は3件から検出され、水道水の水質基準0.3 mg/ℓの半分以下でした。なお、ポンプのさびで鉄が高くなりそうに思われた検体は、採水前の排水量を多くして配管途上が正常化され、低値になりました。はすべて水道水の基準値1.0 mg/ℓ未満でしたが、0.1㎎/ℓ以上が2検体あり、その1件は亜鉛も高値でした。劣化したガルバリウム鋼板と、それに接触する水に濡れた銅製の部材(例えば避雷針アース用銅製ケーブル)間で電食(異種金属接触腐食))が起こっていたのかもしれません。マンガンは、水道水の基準0.05mg/ℓの半分以上が1件で、他は2割以下でした。

ヒ素バナジウムはいずれも不検出でした。バナジウムは土壌由来の他に重油燃焼由来の重要な指標であり、ヒ素は石炭燃焼由来の指標とされています。また、バナジウムとマンガンの比(V /Mn)やヒ素とバナジウムの比(As/V)で長距離輸送や大陸からの越境移流などがわかる2)とのことですが、今回はヒ素、バナジウム自体の濃度が低くて判断できませんでした。近年の調査結果からは、太平洋側や関東への越境汚染の影響は少ないという報告も示されているため、首都圏地域では問題視する必要はないだろうと思われます。

なお、今回検査しなかったについては、国立土木技術政策総合研究所が実施した、路面排水の水質調査に関連する2004年から5年間国道20ヵ所のデータでは、0.08mg/ℓ未満であり、そのうち0.06以上の高めの2ヵ所について年間20回の検査をして、両方の鉛濃度は同程度で平均0.02mg/ℓであったという結果4)が得られています。おそらく鉛についても雨水タンク水中の含有量は低いものと推察されます。

細菌検査について

急性毒性的な観点から、指標として、一般細菌、大腸菌、レジオネラ属菌を検査項目としました。病原性のない一般的な細菌の数を調べる一般細菌は、1ml中1~3800個であり、雨水は自然水のため多少とも検出されます。気温が高く細菌が繁殖しやすい時期でしたが、比較的少ない結果となりました。水道水の水質基準1ml中100個以下も4検体ありました。

大腸菌は、恒温動物の腸内に住む細菌であり、猫や鳥の糞等の混入が想定されますが、今回陽性は3件(27.3%)でした。これまでの報告でも、大腸菌は一過性に陽性になることが分かっています。大腸菌が検出されても、一般細菌は多いものでも1200個と少なめでした。

レジオネラ属菌は、吸い込むと呼吸器から侵入し肺炎を起こす菌であり、土壌中に生息する菌ですが、今回はいずれの検体も不検出でした。

これらはウィルスも含めて、一般に煮沸によって死滅させることができます。

まとめ

2015年7月から1年かけて実施した簡易検査及び2016年9月に実施した精密検査の結果から、近年の雨水は酸性雨といってもpH4以上であり、雨水中に含まれる様々な大気汚染物質については、件数は少ないですが、比較的条件の厳しい場所の雨水タンク水でも、現状ではあまり問題視する必要がないと思われました。一部に劣化したガルバリウム鋼板や銅製の屋根部材等から金属元素が溶出するとわかりました。しかし、長期間飲用したりしない限り健康を害することはないレベルでした。

細菌検査では大腸菌が3件から検出されましたが、一般細菌は少なめでレジオネラ属菌はすべて陰性でした。汚染は少なく、煮沸で対応可です。また、飲用以外の洗濯、掃除など生活用水とし利用する場合は、消毒などは必要ないので、雨水は災害時に大変有効に使えると思われます。

後編:雨水はきれい!~災害時に飲む判断は自分の五感で~雨水タンク水の精密検査結果の報告(その2)

【参考文献】

1) 環境省酸性雨モニタリング結果報告HP

http://www.env.go.jp/air/acidrain/monitoring/h26/index.html

http://www.env.go.jp/air/acidrain/monitoring/h26/03_ion.pdf 他データ入pdf

2) 奈良県における降水中のイオン成分及び微量元素成分の特性について 中山義博・浅野勝佳・山本圭吾 奈良県景観・環境総合センター研究報告・第1号・平成25年度

3) 外装鋼板における接触腐食減少と使用条件 www.kinzoku-yane.or.jp/technical/pdf/no223.pdf

4) 土木学会第65回年次学術講演会(平成22年2月)国土技術政策総合研究所 路面排水の水質に関する調査

 http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00035/2010/65-07/65-07-0108.pdf

5) 東京都環境白書2016 https://www.kankyo.metro.tokyo.jp/basic/attachement/taiki.pdf

6) 埼玉県大気環境調査結果

http://www.pref.saitama.lg.jp/a0504/taikikankyoutyousa/

https://www.pref.saitama.lg.jp/cess/torikumi/yoshi/documents/15235.pdf

7) 神奈川県環境科学センターwww.k-erc.pref.kanagawa.jp/center/kankoubutu/…/Bulletin2015-05.pdf

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