活動記録

雨水はきれい!~災害時に飲む判断は自分の五感で~
雨水タンク水の精密検査結果の報告(その2)

柴 早苗・高橋朝子(安心して雨水を使うための水質検査担当)

災害時に水道が出なくなったら…ちょっとした知恵と五感が大事

災害時にライフラインが断たれ、身近な水を使用せざるを得ない時、あなたはどんな水を使いますか?まず水源はどこにあるのか、水の由来が重要です。地震が起きた場合には、井戸水は水みちが変わって濁りなどが観察されるかもしれません。また川の水にはどこかの工場から排水が流れ込んで、何らかの汚染が発生する可能性も考慮する必要があります。二度と起こしてほしくないことですが、福島第一原発の放射能汚染事故の際には、大気中に放出された放射生物質が雲や風によって運ばれ、その汚染物質を含んだ雨が遠く離れた地域にも降り注ぎました。つまり生活用水の安全性を確保するには、水がどのような経過をたどって来ているのかを考え、自らが選択することが重要になります。

基本的に空の汚染がない限り、溜めた雨水は一番身近な水源になりうると思われますが、災害時には安全を確かめる検査など想定できません。災害時に使う場合、自分の五感で観察して、使用できるか否かを判断することが求められます。熊本地震の後、大雨があっても使える水がないという事態が生じましたが、大雨の場合大気汚染は無視できるし、それこそ雨水は天然の蒸留水であり、十分に活用できるのではないでしょうか。災害時などに一過性に皿洗い、身体の清拭、あるいはフィルターろ過や加熱処理をして飲用や調理に使用する、場合によってはそのまま飲むこともあり得ます。

五感に関係する検査結果

今回の精密検査の結果から、水道水の簡易水質検査としても広く実施されているいくつかの理化学検査の結果を、五感と関連するものからみてみます。

色度は、黄褐色系統の着色程度ですが、水質基準の5度以下が殆どで1件のみ6.1と上回りました。また、濁度は土壌や細砂などの混入が考えられますが、いずれの検体も水道水の水質基準2度を下回りました。これらの結果は、一般的に肉眼では無色透明に見えるレベルです。

臭気は、土砂の粉塵からくるほこり臭が10件、腐敗臭(落ち葉の朽ちた臭い)1件の結果となりました。腐敗臭の検体は大腸菌が出ていましたが、一般細菌は少なめでした。自然水のため、止むを得ない結果と思われます。着色や濁り、臭いは、活性炭と中空糸膜付きのフィルター等で取り除くことができます。煮沸でも臭いを減少させることができるでしょう。

図4 色度とTOCの相関図

図4 色度とTOCの相関図

有機物(全有機炭素(TOC)の量)(以下「TOC」という。)は、含まれる有機物を炭素として測定し、水道水の基準は3以mg/ℓ下です。0.4~1.7mg/ℓの範囲となり1mg/ℓ以下が9件でした。高めの2件も水道水でもみられる程度の値でした。

色度とTOCの相関を調べてみたところ、図4のように相関係数γ*=0.93で、地質に由来する有機物と色度に強い相関性が認められました。さらに高い値のところでどうか気になるところですが、有機物が多いと細菌の繁殖も懸念されるため、着色の程度を観察することで、有機物汚染の判断にもつながるといえます。但し、微粒子状の鉄さびでも色度が高くなり、多いと金気臭を伴います。これらのことを念頭におく必要はあります。

宅配送付分と同時に事務局にてポータブル計器で行った電気伝導率は14~87μS/cmであり、イオン性物質は少なめでした。それに加えて今回の検体は、有機物の観点からも比較的清浄な水であることがわかりました。初期雨水除去装置や集水面に人や動物が立ち入らないようにすることも、有機物汚染を少なくする意味で大切です。

非常時に備えて普段から、着色具合、濁りや臭いの有無、浮遊物や沈殿物があるか等、五感を使って観察しながら、使い続けていくことが大切と思われます。

*γ:「ガンマ」という。相関係数を表す記号。

水道水の水質基準は雨水にはなじまない

雨水は自然水であり、管理された水である水道水の水質基準の適用を受けません。雨水の水質を水道水の水質基準と比較することは、便宜的に行っているもので、値が基準値から外れたからと言って重大視する必要はないと思われます。水道水の各項目の水質基準ができた経緯を調べてみると、毒性の観点から定められているものがある一方で、水道水の性状として生活に使用して問題が生じない値として、決められているものも結構あります。また、もともと、飲用ばかりでなく用途によって衛生上求められる水質は異なっています。

以下に今回実施した各検査項目の解説を雨水活用の視点も入れて、私見として以下にまとめてみました。

◎検査項目の説明(雨水活用の視点も入れて)

色度:地質に由来するフミン質(落ち葉等の分解物)、微粒子の鉄やマンガンでも同系統の黄褐色の色が出る。

濁度:土壌粒子、粘土成分、細砂、有機物などで濁りが出る。また、水中に有機物が多い場合には細菌も多くなり濁りも出る。

臭気:水源の状況を反映して付いた臭いで、官能検査で行う。土臭、かび臭、腐敗臭、藻臭などと表現。

●有機物(TOC):全有機炭素であり、含まれる有機物を全部炭素に酸化して求められる。土埃や落ち葉など屋根や樋に溜まる有機的な汚れが多いほどTOCの値は高くなる。

●pH:pH7が中性、それから小さくなるほど酸性が強く、逆に大きくなるほどアルカリ性が強い。大気中の二酸化炭素が溶け込んでいるため、雨水そのもののpHは5.6程度になる。人為起源の大気汚染物質や火山ガスが溶け込むと、それより低い値となり、酸性雨と呼ばれる。

亜硝酸態窒素/硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素:車のエンジンや工場のボイラーなど高温で物を燃焼することにより発生する窒素酸化物で、大気汚染物質の一つ。窒素の形態が亜硝酸(NO2)か、硝酸(NO3)かの区別を示す項目となっている。水道水の水質基準では、亜硝酸態窒素については、近年の知見からかなり低い値でも発がんの恐れがあるとして、単独の基準が設定された(2014.4.1施行)。

塩化物イオン:地質に由来し自然水には常に含まれる。海に近い場合は、海水のしぶきなどの影響で高めになる。融雪剤として撒かれた塩でも増える。近年は焼却場からの発生は減少している。

硫酸イオン:水道水の水質基準はない。窒素酸化物と同じく化石燃料の燃焼によって生じる大気汚染物質。低硫黄の軽油や重油等の普及で、硫酸イオンによる大気汚染は近年減少している。

硬度(カルシウム・マグネシウム):地質に由来するもので自然水に一番多く含まれる。日本の水道水は軟水が多いが、ヨーロッパは硬水が多い。雨水そのものは硬度が10mg/ℓ未満の超軟水。硬度が低いほど石鹸の泡立ちが良く、雨水は洗濯に向く。また、コンクリートタンクにためると、そのアクが出て高くなることがある。

銅/マンガン/鉄/亜鉛:これらは健康の要因ではなく生活に支障ない程度の濃度で水質基準が定められている。銅は洗濯物等への着色防止で1.0mg/ℓ以下。マンガンは黒水障害の発生防止で0.05mg/ℓ以下。鉄は味覚及び洗濯物への着色の視点から0.3mg/ℓ以下。亜鉛も味覚、色の視点から1.0mg/ℓ以下。

ヒ素/鉛:水道水では毒性評価によって健康被害のないレベルで水質基準が定められ、両方とも0.01mg/ℓ以下。鉛管の水道管の場合は、朝一番の水に溶出が多めとなるので注意。

バナジウム:地質由来や石油にバナジウム化合物が含まれている。水道水には基準がないが、米国のカリフォルニア州では15μg/ℓ以下が推奨されている。

一般細菌:水中にどのくらい細菌が存在するかをみる。水道水の基準は塩素消毒が適正か否かの判断のため1ml中に100個以下。消毒していない雨水では、栄養となる有機物が多かったり水温が高いと繁殖が進み、多くなる。一般には雨水は栄養が少ないので、一旦増えても減少していく傾向がある。6)

大腸菌:人や温血動物の糞便中に存在し、検出される場合は病原微生物に汚染されている疑いがある。雨を集水する場合は、小動物や犬猫等が入る場所などを避ける配慮が必要。

レジオネラ属菌:呼吸器から感染し、肺炎を起こす。環境で増殖する典型的な菌で、細菌類を主な餌として繁殖する原生動物(アメーバ類)に寄生して増殖する。滞留水が発生し、水温の上昇が見込まれる構造の場合には注意が必要。

【参考文献】

6)「日本建築学会環境基準AIJES-W0003-2016雨水活用技術規準」日本建築学会2016年3月

前編:雨水はきれい!~大気汚染物質と微生物を探る~雨水タンク水の精密検査結果の報告(その1)

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